ハンドボール選手紹介-2 日本代表男子#5 高智海吏(トヨタ車体)

高智_4日本代表男子#5 高智海吏(トヨタ車体)

境高―大阪体育大 31歳 186cm90kg 左利き 右バック・右サイド

■どんな選手?/フィジカルに優れた左利き。身体接触を恐れることなく、大きな相手にも得意のカットインで向かっていく。高1までバスケをやっていたので、ハンドボールのキャリアは浅く、伸びしろを期待され続けてきた。未だに若々しいポカをする時もあるが、ポストパスを出せるようになったし、国際試合での強さは頼もしい限り。ケイン・コスギにも似た男前で人気者。よくも悪くも自己愛の強さが、彼の成長を支えている。

■観賞ポイント/足の指を使って、音もなく静かに切れ込む。ありえないくらいの足首の柔らかさで、少し左側で倒れながらシュートを打ち込む。

■活躍の場/彼のピークはおそらく35歳です。東京五輪で完成形が見られるはず。

久保弘毅

愛知高―愛知大 26歳 187cm95kg 右利き ポスト

久保弘毅

ハンドボール選手紹介 日本男子代表#1 棚原良(琉球コラソン)

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日本男子代表#1 棚原良(琉球コラソン)興南高―日本体育大―大同特殊鋼 28歳 190cm90kg 右利き 左バック

■どんな選手?/
人材豊富な87年生まれの中心選手。「棚原世代」と呼ばれるほど、高校時代から注目を集めてきた。天性の点取り屋で、ロングシュートの威力は国際仕様。大同特殊鋼ではくすぶっていたが、地元の沖縄に戻り、エースらしさを取り戻した。プレースタイルは俺様気質満載でも、ハンドボールには純な男。オルテガ監督からのアドバイスを受け、攻守両面で頼れる選手になるべく研鑽を積んでいる。

■観賞ポイント/大きい相手に対するシュートバリエーション。重力を利用した「しゃくり」など、工夫が感じられる。

活躍の場/チームの真ん中に置かないと、力を発揮しない選手です。頭ごなしに叱らずに、上手に乗せれば、物凄い力を発揮します。

久保弘毅

ハンドボールの魅力 ー バックプレーヤーのバランスを見る-2

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・役割に縛られすぎない

 バックプレーヤーで求められる役割(タイプ)を改めて整理しておきましょう。大まかに分けると4種類あります。パスが得意な司令塔(ゲームメーカー)。ロングシュートを打ち続けられる打ち屋。カットインで間を割るタイプ。さらにはファーストオプションにはならないけども、2人目、3人目で攻撃に絡むのが上手なタイプ。オフェンスがスムーズに流れるよう、この4タイプのうちから3人を組み合わせて、流れを変えたい時には違った役割の選手を投入するのです。

しかし若い選手が役割に縛られすぎて、自分のよさを見失うことも多々あります。特に「打ち屋」の役割を意識しすぎると、プレーのバランスが崩れてしまいます。

 豊田合成の小塩豪紀は、中京大時代は非常に判断力の優れた選手でした。シュート、パス、カットインのバランスがよく、プレーの選択肢を上手に選べる印象がありました。ところが豊田合成での1年目で「打ち屋」の役割を意識しすぎるあまり、無茶打ちのシュートが増えてしまいました。エースの役割を期待されて、先輩たちからも「1年目だから自由に打っていい」とお墨付きをもらっていたとはいえ、あまりにも強引なシュートが目立ちました。2014年度に得点ランキング2位で最優秀新人賞にも選ばれましたが、「小塩はハンドボールが下手になったんじゃないか?」といった声も聞かれたほどでした。

 1年目の反省を踏まえて、2年目に小塩はプレー内容をかなり整理してきました。彼本来のバランスのよいプレーが戻り、無茶打ちのシュートが減りました。生真面目な選手なので、1年目は「打ち屋だから、自分が打たなきゃ」という気持ちが強すぎたのでしょう。

 こういう「役割の落とし穴」は他にもあります。パスの上手い選手なのに「途中出場だから、点を取りに行かなきゃ」と強引なシュートばかり選択すると、監督のゲームプランと食い違ってきます。監督はきっと「お前のポストパスで流れを変えたいのに、なんで無茶打ちをするんだ!」と思っているはずです。一般的な役割のイメージと、実際の監督の思惑とは、微妙にズレがあったりするものです。野球で言うなら、監督が「強打の2番打者」を期待しているのに、昔ながらの2番打者のイメージにとらわれてバッティングを崩すのと似ています。

変に役割を意識することなく、自分の強みを素直に出せる選手が、本当に試合で役に立つ選手なのかもしれません。

久保弘毅

ハンドボールの魅力 ー バックプレーヤーのバランスを見る-1

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・3人のタイプと組み合わせ
バックプレーヤー3人の役割分担をわかっておくと、攻撃のバランスが見えてきます。ひと昔前ならセンターはシュート力がなくてもパスを回せたらOKで、左バックと右バックに大砲を置くのが基本でした。センターはひたすらパスを配って、たまにシュートを打とうものなら監督に「お前が打つな!」と怒られたものです。よくも悪くも、打ち屋と司令塔の役割分担がはっきりしていた時代です。

しかし今はポジションチェンジが当たり前になり、どのポジションに入ってもオールラウンドにプレーできる選手が求められるようになってきました。センターであってもシュート力が求められますし、左バック(もしくは右バック)にいるエースにも、左右両方に展開できる視野の広さとパスセンスが求められます。ハンドボールが進化して、単なる打ち屋では通用しない時代になりました。

とは言っても、全員がオールラウンドにプレーできる訳ではありません。バックプレーヤー3人それぞれに得意なプレーがあり、その組み合わせでチームのバランスが保たれています。組み合わせを見ていけば、チームの得点パターンもだいたい推測できますし、選手交代の意図もわかるようになります。

司令塔1人とロングヒッター2人の古典的な組み合わせは見栄えがしますけど、展開力にやや欠けます。ロングヒッターには自分でチャンスを作り出す能力に欠けるタイプが多く、センターの負担も大きくなりがちです。この手の組み合わせの代表例が琉球コラソン。左バックに棚原良、右バックに台湾からきた趙顯章と左右の大砲がいて、センターの水野裕紀がひたすらパス回しに徹するスタイルです。両エースの決定力は抜群ですが、時に球離れが悪くなるのが課題です。

展開力を重視するために、パスを配れる司令塔を2人同時にコートに置くパターンもあります。下手にロングヒッターを配置するよりもボール回しがスムーズになり、攻撃のリズムが作りやすくなります。世界最終予選での日本代表女子では石立真悠子と横嶋彩の司令塔2枚が同時に出場し、真ん中にいる横嶋姉妹の2対2に合わせて、3人目で石立が絡んでくる展開が機能しました。同様に湧永製薬でも司令塔タイプの佐藤智仁と原健也が同時にコートに立つと、攻撃がスムーズになっていました。

しかしパスとカットインが得意な選手だけを3枚揃えても、攻撃はうまくいきません。ソニーセミコンダクタは先日のプレーオフを最後に引退した田中美音子を筆頭に、小さくて巧くてハンドボールIQの高いバックプレーヤーが揃っていました。ところがロングシュートの怖さがないから「巧いんだけど、点が取れない」事態に陥りがちでした。よかった頃のソニーは、田中美音子と張素姫(元韓国代表)の2人が阿吽の呼吸でチャンスを作り出し、ディフェンスがへこんだところにロングシューターの山野由美子がはまる得点パターンがよく見られました。やはりロングシューターは必要なのです。

久保弘毅

ハンドボールの魅力 ー ディフェンスを広げる位置にいるか

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・ディフェンスを広げる位置にいるか

シュートを打ちやすくするために、まずは相手とずれた位置を取ることが大事になります。次に重要なのがディフェンスを広げる位置取りです。特にエースポジションと言われる左バックと右バックは、ディフェンスを広げるための位置取りが求められます。

以前ハンドボールの技術書を作っていた時、ハンドボールをまったく知らない編集者が「シュートを決めたいのならゴールに近づいた方がいいのに、どうして離れるような位置取りをするのですか?」と質問してきました。確かにそうですよね。真ん中に近づけばゴールも広く見えるし、ゴールへの距離も近くなります。でも、その分ディフェンスも分厚くなります。どのシステムも真ん中にディフェンス能力の高い選手を置いて、得点を防ごうとしています。だからインに近づいていくと、ゴールが近くなるような気がしますけど、実際には守られてしまうのです。

ではどうすればいいのか? 真ん中の分厚いディフェンスを何とか広げるために、左バックと右バックはサイドラインに近い位置を取るのです。これも本能に反する動きです。点を取るために、ゴールに近づきたいのが人間の本能。だけどそこをグッとこらえて、点を取るためにあえてゴールから離れた位置を取るのです。サイドライン際に位置を取れば、ディフェンスが真ん中で密集しにくくなります。広がった間を一直線に攻めることができるし、サイドへのパスも出しやすくなります。

さらには両サイドの協力も必要になってきます。両サイドはディフェンスを広げるために、なるべく角を取るようにします。セットオフェンスだけでなく、速攻でもいち早く角を取るのが大事です。たまに女子のチームで、両サイドが角を取らないところもありますが、そうすると「狭い6対6」を攻めることになるので、いつまでたってもずれが生じません。角からだとサイドが飛び込めない。角を取ると、戻りが遅れる。体力的な問題などの理由はあるでしょうけど、両サイドはなるべく角を取って、ディフェンスを広げてほしいですね。

どのポジションにも共通して言えるのは「ディフェンスを広げる」意識です。「ディフェンスを広げる」=「スペースを作る」ですし、スペースが広ければ広いほどオフェンスが有利になります。この原理原則がわかっていれば、チーム全体で動いてスペースを作ろうとしているハンドボールを「美しい」と感じられるでしょうし、ただ上から打つだけで問題を解決しているハンドボールが「面白くない」理由がわかるでしょう。

サッカーでもボールに群がってグチャグチャ攻めるのを「軍鶏の喧嘩」と言ったりします。いい位置を取って、スペースを作り出すから美しい。このあたりの審美眼は、ボールゲームに共通する考え方かもしれません。

久保弘毅