カテゴリー: 久保弘毅

  • 今週末はプレーオフ(ハンドボール)-4

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    ・男子第二試合、トヨタ車体×トヨタ自動車東日本

    レギュラーシーズンの対戦は1勝1敗。その日の状態次第で、結果も変わりそうです。

     

    トヨタ車体は故障者を多く抱えながらも、若手の台頭で日本選手権を制しました。津屋がエースポジションで年間通して安定した働きを見せ、196cmの笠原が60分間真ん中を守れる安定感を身につけました。津屋、笠原といった「素材」を、時間をかけてものにしてきた酒巻監督の育成力は、もっと評価されていいでしょう。「無名でも身体能力の高い選手に最高のトレーニングを提供する」のが、トヨタ車体の育成方針です。

     

    決めごとの少ないフリーオフェンスにこだわるチームなので、短期決戦ではやや安定感を欠きます。セットオフェンスが手詰まりになり、簡単に速攻を許す時間帯が、60分間のうちのどこかに必ず出てきます。踏みとどまるために重要なのがディフェンスです。サイズとフィジカルを武器とした6:0DFでどれだけ守れるか。国内随一の阻止率を誇るGK甲斐の大当たりにも期待したいところです。

     

    対するトヨタ自動車東日本は、リーグ加盟4年目で初のプレーオフ進出を果たしました。中川監督はシーズン中「早く勝ち過ぎた弊害が出ている」と苦言を呈することもありましたが、年明けからの戦いぶりは見事でした。大学時代に攻撃専門だった選手がほとんどにもかかわらず、チーム全体に3:2:1DFの哲学を落とし込み、個人能力とチーム力の両方を上げてきました。

     

    攻撃では濱口、玉井のダブルエースの得点力に加え、左利きの山田がどれだけ得点できるかがポイントになるでしょう。山田の得点が伸びると、東日本の勝ちパターンです。また松本、吉田の両サイドにも注目してください。地味ですけど、実にサイドらしい、玄人好みなサイドプレーヤーです。特に松本のシュートテクニックは、国内トップクラスと言っていいでしょう。近め、遠めを正確に打ち分ける技術を堪能してください。

    久保弘毅

  • 今週末はプレーオフ(ハンドボール)-3

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    ・女子第二試合、オムロン×ソニーセミコンダクタ

    偉大なる左腕エース・藤井が抜けて、大黒柱の東濱もケガがち。今季のオムロンは大幅に若返り、苦戦続きでした。それでも黄慶泳ヘッドコーチの我慢強い起用が実を結び、エース候補の吉田が初の得点王になりました。この1年で攻撃のバリエーションが増え、相手との駆け引きも上達しました。今季のオムロンはよくも悪くも吉田が点を取らないと勝てないチーム。吉田のシュート精度が勝負のカギを握ります。

     

    戦力的には苦しいながらも、GK藤間、東濱、永田、勝連と、勝ち方を知る選手がいるのがオムロンの強み。特に東濱がコートにいるだけで、チームの落ち着きが違ってきます。東濱を中心に守り勝つことができれば、2年ぶりの優勝も夢ではありません。昔からオムロンは、どこよりも守りを重視してきました。

     

    対するソニーセミコンダクタですが、レギュラーシーズンは飛騨高山に星を落とすなど、いまいち乗り切れませんでした。しかし10月の国体では、日本代表組がいない中で控え組が奮起し、延長戦の末にオムロンを下して決勝まで勝ち進んでいます。特にルーキーの鈴木は国体でアピールして、レギュラーの座を勝ち取りました。2枚目が守れる左サイドで、1対1の強さもあり、なかなか面白い存在です。

     

    ソニーは伝統的にスキルフルな選手が多いチームです。女子球界の生きる伝説・田中に代表されるように、小さくても巧い選手がボールを展開します。でもロングシュートが足りないので「巧いんだけど、シュートに持ち込めない」時間帯がどうしても出てきます。セットオフェンスをスムーズにするためには、大砲の活躍が必要不可欠。安倍、山野といったロングが打てる選手がはまれば、全体の得点も伸びるでしょう。

     

    ロースコアの守り合いが予想されますが、守りではオムロンに一日の長があります。ただしソニーのGK飛田が勝負強さを発揮したら、試合はもつれるでしょう。いくつになっても向上心が衰えないベテランGKは、勝負どころで抜群の集中力を発揮します。

    久保弘毅

  • 今週末はプレーオフ(ハンドボール)-2

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    男子第一試合、大崎電気×大同特殊鋼

    日本代表を数多く抱える大崎電気は文字通りのタレント軍団。今季は代表選手が不在の間に、夏山、時村、馬場、ルーキーの柴山らが力をつけ、さらに選手層が厚くなりました。普段どおりの力を発揮できれば、間違いなく優勝候補筆頭なのですが、ことプレーオフに限ると「よそ行き」のプレーに終始して、なかなか勝てません。

     

    勝つためにはセットオフェンスが単調にならないことも大事ですが、まずはディフェンスから。いい時の大崎は密集を作れています。悪い時はそれぞれが孤立してしまうので、いかにディフェンスで一体感を作れるか。ディフェンスラインを裏から支える、GK木村の声かけがカギを握ります。日本代表でもオルテガ監督の特殊なシステム(クロスアタックを多用し、2対2を作らせないシステム)を理解し、試合中にこまめに声をかけながらディフェンスを修正し、株を上げました。また馬場をトップに据える変則の5:1DFや、夏山、時村といった守備で体を張れる選手が、流れを変えるキーマンになりそうです。

     

    大同特殊鋼はプレーオフに限っては特別な強さを誇ります。レギュラーシーズンはふらふらしていても、プレーオフになると見違えるような一体感を発揮し、接戦をものにしています。震災でプレーオフが中止になった2011年をはさんで、プレーオフでは足かけ10年負けがありません。

     

    今季はシーズン途中に元韓国代表の名ポスト・朴重奎が加わり、さらには内定選手で大学NO.1のバックプレーヤー東江が入りました。この2人が加入したことで、シーズン当初とはまったく別のチームになりました。朴重奎のライン際での強さは今もワールドクラス。ただ重くて強いだけでなく、体を波打たせるようにして相手の力をかわします。若手の成長株・藤江のスピードも必見。大同が勢いに乗る時は必ずと言っていいほど、藤江の速攻やカットインが決まります。あとは武田、千々波、岸川、野村ら勝ち方を知るベテランが勝負の節目に活躍すれば、いつもの大同の勝ちパターン。堅い5:1DFとGK久保(侑)の大当たりで、短期決戦で強さを発揮します。

    今年も「最後に勝つのは大同」なのか。それとも大崎が歴史を変えるのか。4試合の中で最も注目度の高い対戦カードです。

    久保弘毅

  • 今週末はプレーオフ(ハンドボール)-1

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    今週末はプレーオフ

     

    ・国内最高峰のタイトル

    3月26、27日に日本リーグのプレーオフがあります。シーズンの締めくくりで、国内の四大大会(実業団選手権、国体、日本選手権、日本リーグ)の中でも最も権威のある大会です。このプレーオフのタイトルを獲るために、選手たちは1年間戦っています。

     

    準決勝4試合の組み合わせを順に見ていきましょう。

     

    ・女子第一試合、北國銀行×広島メイプルレッズ

    レギュラーシーズン全勝の北國銀行は、実業団選手権、国体、日本選手権も無敗で制しています。今季負けなしの北國が無傷で四冠を達成するかが、大きな見どころになります。日本代表の角南をケガで欠いてもなお選手層が厚く、様々な組み合わせで勝負できるのが強みです。一番の売りはGK寺田のライナースロー。八十島、鰍場の両サイドを走らせるだけでなく、時には真ん中にいるポストの横嶋(か)にも速攻のパスを通します。サッカーのサイドアタックと中央突破を使い分けるかのような、速攻でのロングフィードは必見です。

     

    セットオフェンスでは、日本代表で活躍した横嶋姉妹の「縦の2対2」が軸になります。妹の横嶋(彩)がセンターで自由奔放に動き回り、姉の横嶋(か)がポストで合わせるコンビネーションは、まさに阿吽の呼吸。特に横嶋(か)は史上初の9割を越えるシュート率を記録しました。勝負どころでは必ずと言っていいほど得点に絡んでくるので、ライン際で動き回る横嶋(か)からは目が離せません。

     

    対する広島メイプルレッズはレギュラーシーズン最終戦の飛騨高山ブラックブルズ岐阜戦に勝って、最後のひと枠に滑り込みました。急激な若返りを図った影響もあり、不安定な戦いが続いていましたが、両サイドとポストはしっかりしています。左サイドの松村は日本代表の左サイドでもあり、肩が外れたような独特のシュートフォームが持ち味です。右サイドの門谷は貴重な守れる左利き。高山は攻撃力だけに限定すれば国内NO.1のポストです。ライン際で高山をどれだけ生かせるか。高山がバックプレーヤーに回る時間帯もありますが、できればポストに専念させたいところです。

     

    守りではGK毛利の阻止率に注目です。最終戦では阻止率8割という、信じられないような数字を残しました。ノーマークへの反応がよく、大胆なキーピングで会場を沸かせます。第一試合の最大の見どころは「8割止めるGK毛利VS9割決める横嶋(か)」と言ってもいいでしょう。北國優位は間違いありませんが、広島はGK毛利の大爆発があれば、大逆転の可能性も出てきます。

     

    久保弘毅

  • ハンドボール女子の世界最終予選は3月18日から

    ・オランダ、フランス、チュニジアとの戦い
     リオ五輪の出場権をかけて、日本代表女子は18日から世界最終予選を戦っています。オランダ、フランス、チュニジアとの4ヶ国で総当たりのリーグ戦を行い、上位2ヶ国がリオ五輪に出場します。

     日本の初戦の相手はチュニジア。昨年12月の世界選手権では快勝している相手です。この時は日本のオープンディフェンスが機能して、守って速攻に持ち込めました。しかし油断は禁物。勢いに乗ると怖いチームなので、相手に流れを渡さないよう、守り勝つことが大事になってきます。

     2戦目の相手は世界選手権銀メダルのオランダ。年齢的にも脂の乗ったメンバーが、組織的に得点を重ねてくる印象があります。セットオフェンスが粘り強いので、そう簡単には崩れません。日本の苦戦が予想されますが、2勝1敗の三つ巴になって得失点差で順位が決まる可能性もあるので、なるべくロースコアに持ち込みたいところです。

     最終戦は開催地フランスとの対戦。世界選手権では7位に終わりましたが、本来であればメダル級の実力を持っている国です。好不調の波が激しく、はまった時の爆発力は鮮やかだけど、セットオフェンスが淡泊になって得点が停滞する時もあります。日本が得意のオープンディフェンスで圧力をかけて、バックプレーヤーの単発のシュートに持ち込めば、勝機はあります。

     日本の女子にとってフランスは、目の前に立ちはだかる大きな壁。2012年の世界最終予選でも対戦しましたし、2013年の世界選手権でも対戦しています。今回の組み合わせが決まった時も、選手から「またフランスと?」といった声も聞かれました。ちなみに2013年の世界選手権では、後半途中まで接戦を演じながら、守りの要・永田しおり(オムロン)が3度目の退場で失格になった影響もあり、終盤に10連続失点を許してしまいました。後半の苦しい時間帯を退場者なしで守りきれるかが、ポイントになるでしょう。

     40年ぶりの五輪出場へ向けて、最後の戦いに挑むおりひめジャパンに、熱い声援をお願いします。

    久保弘毅
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  • ハンドボールの魅力 - 3:2:1DF

    3:2:1DF
           
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    ピラミッド状に人を配置したディフェンスシステムです。5:1DFよりも2枚目(両45度)が前に出て、相手のエースに圧力をかけます。上手くはまればパスカットから速攻を量産できるシステムですが、運動量が必要になります。また連携を作り上げるのに時間がかかるので、単純に「3:2:1DFにすれば、速攻が増える」とは言い切れません。

    相手に圧力をかけられる反面、相手にスペースを与えてしまうことにもなるので、ハイリスクハイリターンなシステムと言えるでしょう。1対1の勝負に負けると、簡単に間を割られてしまいます。スペースが広いので、サイドシュートやポストシュートを打たれるリスクも大きくなります。6:0DFよりもノーマークになる可能性が高いので、ノーマークに強いGKが必要になってきます。

    一般的に3:2:1DFの攻略方法は「ダブルポストになった瞬間」だと言われています。誰かが切ってダブルポストになると、2人目のポストを誰が見るかが曖昧になるからです。その弱点に対応するために、ダブルポストになった時はトップがライン際に下がるバリエーションがあります。

    選手の配置も見どころのひとつです。一般的にトップは大きくて運動量のある選手、両45度はエースキラーで身体接触を好む選手、後方にいるフルバックは大型で味方に指示を出せる選手が適役です。しかし速攻での走る距離を考えて、トップにポストの選手を置き、両45度をサイドの選手に任せる方法もあります。こうすると全員の走る距離が短くなるので、体力を消耗することなく攻守の切り替えができます。湧永製薬が3:2:1DFをする時は、ポストの選手をトップにしています。

    3:2:1DFで有名なのは韓国代表です。男子も女子もここぞという場面で高い3:2:1DFで相手の足を封じ、速攻につなげてきました。韓国伝統のフットワークがあるから成り立つシステムとも言えるでしょう。日本ではトヨタ自動車東日本が3:2:1DFを得意としています。90年代後半の中村荷役の黄金期は、3:2:1DFからの速攻で他を寄せつけませんでした。

    日本代表の名ディフェンダーだった永島英明(元大崎電気)は、3:2:1DFのフルバックをしていた時にこう言っていました。「3:2:1DFは隙の多いシステムだけど、味方を動かすことで相手からスペースが見えにくくなります。フルバックは味方を動かしながらスペースを消さないといけないので、頭が疲れますね」 フルバックの危機管理能力に注意しながら観戦できるようになれば、かなりの上級者です。
    久保弘毅

  • ハンドボールの魅力 - 5:1DF - 2

    ・5+1DF
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    トップが1人前にでるシステムでも少し変則的なものを、最近では5+1DFと呼んでいます。通常の5:1DFではトップが真ん中にいるのに対し、5+1DFではトップが相手のエースにマンツーマン気味についたり、左右に動き回ったりと、動きに自由度があります。「マンツーマンでエースについているようで、ついていないような」距離感で相手を惑わすのが最大の狙い。小さくても機動力があり、「1人で2人を守る」くらいのクレバーな選手がトップに適任です。

    5+1DFのトップで代表的なのが、大崎電気の馬場佑貴です。流れを変えたいタイミングで出てきて、相手のパス回しを分断します。大崎の試合を見る時は、どの時間帯で馬場が出てくるかに着目するといいでしょう。大崎では他にも、ベテランの豊田賢治が5+1DFのトップに入る場合があります。これは元木博紀と2人同時にコートに立った場合の作戦だと思われます。豊田はパスカットがとても上手い選手ですし、自由に動くのを好みますが、味方の陰から飛び出したいタイプでもあるので、トップで動き回るよりは、サイドDF(1枚目)にいた方がよさを発揮します。

    女子ではソニーセミコンダクタの本多恵が5+1DFのトップで有名です。6:0DFの右の2枚目から少しずつ前に出て、いつのまにか相手エースにマンツーマンでつくような変化を得意とし ています。オーソドックスな6:0DFが得意なオムロンも、勝連智恵をトップに置く5+1DFを用意しています。本多、勝連ともに判断能力に優れ、ハンド ボールIQが非常に高い選手です。

    5+1DFではトップの選手の「つかず離れず」の距離感を楽しんでください。

    ソニーセミコンダクタ 本多恵
    ソニーセミコンダクタ 本多恵

    久保弘毅

    画像は手の球日記
    http://www.plus-blog.sportsnavi.com/handjpn/
    より

  • ハンドボールの魅力-5:1DF

    ・5:1DF
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    ハンドボールの流れを変える要素のひとつであるディフェンスシステムについて、さらに見ていきます。

    5:1DFは、6:0DFから1人前に出たシステムです。トップの選手が相手のパス回しを邪魔して、攻撃を分断します。詳しいことがわからなくても「パスがリズムよく回っているか」さえわかっておけば、攻撃が上手くいっているかどうかがわかります。ポン、ポンとリズムよくパスがつながっている時は、攻撃が成功する確率も高くなります。パスが渡ってから妙な間ができたり、ドリブルなどでボールを持ち過ぎる時間が増えていたら、攻撃が滞っています。裏を返せば、ディフェンスが成功していると言えます。

    話を5:1DFに戻すと、トップには大きくて動ける選手が適任です。長いリーチでパス回しのリズムを崩し、大きな一歩でバックプレーヤーに圧力をかけ、相手の攻撃の方向づけることができれば、後ろの5人とGKも守りやすくなります。トップの選手が「どっちに(相手の攻撃を)誘導しているか」を観察するのも面白いでしょう。

    5:1DFで有名なのは大同特殊鋼です。トップで手足の長い千々波英明が動き回り、フルバック(後ろの5人の真ん中)にはベテランの武田享がいて、周りに指示を出します。大同のプレーオフでの強さは、千々波―武田の「縦のライン」があったからと言われています。最近は元韓国代表の朴重奎がフルバックに入りましたが、新たな並びで連携を構築できるか注目です。

    5:1DFにも、もちろん弱点はあります。6:0DFよりもライン際のスペースが広くなるので、間を割られるリスクも増えてきます。ライン際のスペースが広くなる分、サイドシュートやポストシュートも多くなります。

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    久保弘毅

  • ハンドボールの魅力-6:0DF

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    6:0DFは6mのゴールライン付近に6人が一線になって並ぶシステムです。最もオーソドックスで、相手にスペースを与えない守り方です。上背のある選手を揃えて6:0DFをすれば、ロングシュートを枝(ディフェンスの上げた腕)で防げますし、間を割られるリスクも少なくなります。大型選手がライン際にべったりと引いて(通称「べた引き」)守れば、理論上は最強です。

    ところが6:0DFの枝の上からロングシュートを打ち込まれると、苦しくなります。国際大会になると、11mぐらいから打ち込めるバックプレーヤーが、どの国にも必ず1人はいます。ロングが怖くて前に出ると、ポストにパスを落とされて、ポストを守ろうとするとロングを打ち込まれる――こうなると完全に悪循環ですね。マークの受け渡しが不十分になり、2人揃って前に出ようものなら、ポストが完全にノーマークになります。

    ロングとポストのシンプルな2対2だけど、ロングシューターに威力があり、ポストプレーヤーが大型だと、これだけやられてしまいます。中東勢にやられる時のよくあるパターン。「決してきれいなハンドボールじゃないんだけどな」といった負け惜しみのひとつも言いたくなりますが、ハンドボールはコンタクトスポーツで、なおかつサイズスポーツでもあります。

    こういう大きなポストを守るために、6:0DFだけどポストだけはマンツーマンで守る方法もあります。相手のポストが移動した時に、ディフェンスがそのままついて行っているかどうかが、ひとつのチェックポイントになります。

    その他にも6:0DFだけど2枚目(両端から2人目)が高めの位置でピストンする守り方もあります。見た目が4:2DFのような6:0DFもあります。この場合は2枚目の運動量が生命線になってきます。

    オーソドックスな6:0DFで有名なのは、男子ならトヨタ車体、女子ならオムロンでしょう。北國銀行はサイズがない分、同じ6:0DFでもピストン(出たり戻ったりする動き)が頻繁になります。高校では女子の高松商業がオーソドックスな6:0DFだけで日本一になっています。マンツーマンなど奇策を一切使わず、相手のロングシューターを上手に封じます。高松商業の田中潤監督は「ウチは運動量が少ないから『あまり守ってなさそうなのに、なんで守れるの?』とよく質問されますけど、一生懸命頭を使って守っているんですよ」と言っていました。戦術理解がしっかりしていれば、オーソドックスな6:0DFが最強なのでしょう。

  • ハンドボールの魅力-ディフェンスシステムを見る

    ・ディフェンスシステムを見る 久保弘毅

    ディフェンスシステムが変わると、試合の流れも変わります。また、どういったディフェンスシステムを使い分けているかで、チームの特徴も見えてきます。

    ハンドボールはゾーンディフェンスで守ります。なぜならハンドボールはバスケットボールよりもコートが広いので、1対1をマンツーマンで守り切るのが難しいからです。1対1の原則は、スペースが広ければ広いほど攻撃側が有利になります。

    だからディフェンス6人をいろんな形に並べて、目の前の選手を「そのまま」マークしたり、隣とマークマンを「スイッチ」(もしくは「チェンジ」)したりしながら守ります。原則として目の前のゾーンにいる選手が、自分の受け持ちになります。この「自分のマークが取れている」状態かどうかを見ていくと、わかりやすいでしょう。

    相手が速攻で押してきた時も、まずは個々がマークを取ることから始めます。セットディフェンスの最初の状態では必ずマークが取れているはずです。攻撃側はマークを外したりミスマッチを作ったりするために、ポジションチェンジで揺さぶりをかけます。逆に守る側はマークがずれたり、重なったりしないよう、声を出して隣との連携を図ります。

    「そのまま」と「スイッチ」を上手に使い分けて、マークの受け渡しが完璧であれば、理論上は失点することはありません。しかし実際にはサイズのミスマッチができたり、ノーマークの選手を作ってしまったりと言った事態が起こります。また、どのシステムにも必ず弱点があり、変則的なシステムほど、はまった時は鮮やかですが、崩されるリスクも大きいことも知っておきましょう。

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