#2 永田美香(北國銀行)
・世界に対抗できるサイズの持ち主
身長が180㎝もあって、なおかつ速攻で走れる脚力がある。日本の女子にはなかなかいなかった、動ける大型選手。四天王寺高を卒業して北國銀行に入った時点で、荷川取義浩監督は「2020年の東京五輪に向けて育てたい」と、永田(美)を早くから抜擢している。
先行投資の甲斐あって、昨年あたりから目に見えて強さが増してきた。ライン際で相手を押し込み、ポストシュートで退場つきの得点を奪う。相手の動きを背中で感じ取るなど、コメントもレベルアップしている。北國銀行では押しも押されぬ主力に成長し、試合で慌てる後輩たちにさりげなく声をかけるなど、すべてにおいて視野が広くなった。
あとは日本代表でポスト(PV)の定位置をつかむだけ。#3角南果帆と#28永田しおりの2人が盤石とはいえ、そこに割って入るだけの実力はついてきた。角南(果)の賢さだけでは厳しい時、永田(し)に退場がかさんだ時、永田(美)の出番になる。日本が好調だと、相手もライン際でまずポストを潰しにかかる。そういう時に永田(美)のサイズとパワーで対抗できたら、後半の苦しい時間帯も乗り切れる。
期待したいプレーは、まずは速攻。チーム1の長身で、真ん中から飛び出し、速攻の先頭に立って走る姿は見ごたえがある。セットOFでは、北國の先輩#41河田知美との2対2。小さなテクニシャン・河田のシュートを手助けしながら、ポストパスをもらえるシーンが増えれば、日本の得点が伸びる。DFシステムの兼ね合いもあるが、6:0DFの中央で#24原希美、永田(し)の休憩時間を作ってくれるとありがたい。昨年のアジア選手権はケガで途中からベンチアウトになったので、ケガなく出続けることが第一。出場機会が増えるほどに、大きく成長しそう。
久保弘毅
この選手が凄い! その13
吉田起子(オムロン)
【驚異のロングシューター】
ロングシュートに限定すれば、日本リーグの女子ではナンバーワン。気持ちよく腕を振った時のシュートは、恐ろしいほどの速さでゴールに突き刺さる。高く跳べて、腕が長くてよくしなり、1試合打ち続けられる肩のスタミナがある。まさにエースになるべくして生まれてきた選手。いい時の吉田は間違いなくワールドクラスのロングシューター。日本の女子には数少ない「打ち込める」ポテンシャルを持っている。
しかし好不調の波が激しく、ボールをもらってからのプレーが多い日は、まったくもって「らしさ」を発揮できないままに終わってしまう。黄慶泳総監督は「僕と吉田との根比べです」と言って、吉田をエースに育てるべく、我慢強く起用してきた。その甲斐あって得点王のタイトルを獲った年もあったが、歴代のオムロンのエースと比べると、信頼度はイマイチだった。
【一芸枠でぜひ代表に!】
しかし、最近は「いい吉田」が増えてきたと評判になっている。対戦相手からも「吉田が調子良すぎて、止められなかった」といったコメントが出てくるようになった。以前は「吉田なら守れる」イメージだったのに、「手がつけられない」日が増えてきた。黄慶泳総監督も「個人の意見だけど」と前置きしながら「吉田を代表に呼んでほしい」と言うようになった。
現在の日本代表女子(おりひめジャパン)に足りないのはロングヒッター。7人攻撃で間を割って、数的優位を活かせる選手は揃っていても、ロングの怖さがない。熊本での世界選手権や来年の東京五輪を見据えて得点力アップを考えた場合に、世界で通用する打ち屋がほしい。その足りないピースに吉田がはまるかもしれない。
シュートを打つ以外のことは、はっきり言って期待できない。でもOF限定で「5分間で2点取ってこい」が可能なタイプ。相手がべた引きで守ってきた時に、ベンチからひょいと出てきて、ロングを連発で決めてくれそうなのは、今の日本の女子では吉田か左腕の中山佳穂(大阪体育大)ぐらいだろう。
【めっちゃいいヤツ】
代表合宿にも何度か呼ばれてはいるが、大事な大会ではメンバー入りしていない。それでも仲間のことを思って応援する。2015年のリオデジャネイロ五輪予選ではコールリーダーになり、応援団と現場との調整役を買って出た。昨年12月の熊本アジア選手権でも、先頭に立って応援していた。おりひめジャパンの応援団長も「ゴー(吉田のコートネーム)は本当に頼りになる」と、吉田の人間性を高く評価している。
普段から明るく、愉快なキャラクター。他チームの後輩たちから「笑いの神」と言われるくらい、人柄がいい。でも、できることなら、今年の世界選手権ではベンチに入ってほしい。徹底マークされても打ち抜ける強さをプレーオフで証明できれば、代表からもう一度声がかかるはず。世界の舞台でも、1本のシュートで流れを変えられる選手だ。
久保弘毅
この選手が凄い! その12
千々波英明(大同特殊鋼)
【究極のトップDF】
姜在源監督(現韓国女子代表監督)の時代に確立された大同の5:1DF。リーグ最高の「守り勝つ」フォーマットが今も成立しているのは、トップDFに千々波がいるから。長いリーチと豊富な運動量で、相手のパス回しのリズムを崩し、攻めの方向を限定する。大同と対戦する相手は誰もが「千々波さんのDF網をどうかいくぐるか」に頭を悩ませる。そして最終的には千々波1人にやられてしまう。
姜在源監督が就任した当初のトップDFは富田恭介だった。しかし富田が移籍してからしばらくはトップDFの後任が見つからず、とっかえひっかえで試していた時期があった。そこに千々波がぴったりフィットした。日体大時代からDF専門で鍛えられ、トップDFとフルバックの両方をこなせる戦術眼があり、なによりも富田に負けないだけの長いリーチと運動量があった。そこから約10年。トップDFのスペシャリストとしての地位を確立し、今シーズン限りでの引退を表明した。
【流れを読む力】
日本代表にはあまり縁がなかったが、日本屈指のDFマスターと言っていい。「姜在源さんの的確な指導と、両45度にいた白元喆さん、地引貴志さん(現コーチ)や岸川英誉(現監督)との密度の濃い会話があって、今の自分があります」とのこと。両45度の強い1対1に支えられ、トップで自由に動き回り、パスコースに入るのが、理想の形だという。
トップDFで躍動するだけでなく、DFでのリーダーシップが素晴らしい。ここ1本を守りたい場面では率先して声をかけて、チームを引き締める。千々波が後ろを振り向きながら手を叩き、チームの士気を高めている時は、試合の流れを左右する場面。短いひとことでチームの意思統一を図り、勝負どころの1本を守り勝つ。勝負の節目を誰よりも理解していて、流れを持ってくる術を知っている。ゲームリーディングも一流の選手だった。
【直接ゴールが隠れた得意技】
7人攻撃のルール改正以前から、直接ゴールを狙うのが得意。数年前の日本選手権では、琉球コラソンが後半残り10秒からGKの攻撃参加で同点に追いついたが、終了間際のスローオフから千々波が空っぽのゴールに投げ込み、決勝点を挙げている。
ルール改正後も、相手の7人攻撃のミスを誘って、直接ゴールを決める場面が何度かあった。慌てて枠を外しがちな状況でも、落ち着いてゴールに投げ込むコントロールが頼もしい。イージーな得点を確実にものにするのが大同のよき伝統であり、短期決戦に強い理由のひとつでもある。千々波の後継者と目される吉田雄貴にも、こういった勝負どころの嗅覚を受け継いでもらえたら。
久保弘毅
この選手が凄い! その11
門谷舞(広島メイプルレッズ)
【この戦力でよく勝っている】
エースの李美京とポストの高山智恵が抜けて、苦戦が予想された今シーズンの広島メイプルレッズ。リーグが始まっても、攻撃力のある三田未稀、木村有沙が戦線離脱し、スピーディーかつ強気な動きで得点に絡んでいた近藤万春もダウンした。それでも高卒ルーキーの井内理絵、田渕美沙を起用しながら、メイプルはプレーオフ進出を決めている。無敗を誇る北國銀行との対戦では引き分けに持ち込み、貴重な勝ち点1をもぎ取った。
手負いのチームをよくまとめているのが、今シーズンからキャプテンを務める門谷舞。「このメンバーでもプレーオフに行きたい」と、弱気になりがちな若いチームを奮い立たせてきた。
【2枚目を任せられる守備力】
はっきり言って、今のメイプルでセットOFでの得点力は期待できない。だからGK板野陽と6:0DFの真ん中4枚でひたすら守り勝つしかない。門谷は右の2枚目に入って、相手のエースを封じる。右サイドが本職の選手で、しかも左利きで、確かなDF力を持った選手は、日本の女子では貴重な存在。もう少しスピードがあれば、日本代表に選ばれてもおかしくない。
以前も紹介したように、門谷と石川紗衣の2人が2枚目で高い守備力を発揮してくれるから、メイプルの6:0DFは成立している。この2人がいたから、メイプルは負けなかったと言っていい。徹底したDFで守り勝つ飛騨高山高の出身者らしく、強くて粘り強い守りで、チームを勝たせる。
【人間性の素晴らしさ】
本職は右サイドなのだが、この1年はチーム事情で右バックに入る時間が増えている。はっきり言って、ミドルシュートの威力は水準以下。無理やりやらされている感が強く、本人も苦しんでいたし、実際に数字もよくない。それでもチームのためにプレーを続け、自分がしんどくても周りに声をかけ続ける。コーチやOGは口を揃えて「門谷は本当によくやってくれている」と、彼女の頑張りをほめたたえる。
最近は左から眞継麻礼、門谷、田渕の上3枚で回す時間帯も増えてきた。門谷がセンターに入ればポストへパスを落とせるし、眞継が得意のフェイントで左のアウトを割れる。右側に田渕を置いておけば、ベンチが近い時に交代しやすい。門谷への負担がさらに大きくなるが、この配置も悪くない。
副キャプテンだった時代からハンドボールへの取り組みがよく、つねにチーム全体のことを考えて行動していた。今年はキャプテンで悩みながらも、若いチームを「自立」へと導いている。今年のメイプルの粘り強い戦いぶりは、キャプテンの人柄を反映していると言っていい。背負うものが多すぎて、キャプテンになった当初は、これまで決めていたシュートまで外していたこともあったが、元来は勝負強い選手。ロースコアの試合展開に持ち込んで、相手の息の根を止める1本を、プレーオフで見せてくれるか。
久保弘毅
この選手が凄い! その10
藤戸量介(豊田合成)
【小柄だけどよく止める】
日本リーグのGKでは最小の身長170cm。最低でも180cmはほしいと言われるGKのポジションで、このサイズで活躍できていること自体が奇跡。チーム内に坂井幹、佐々木亮輔、内定選手の中村匠と大きいGKが揃う中で、ひときわ異彩を放っている。
小柄であるがゆえに、反応が鋭い。ボクサーのような構えから瞬時に飛び出し、ボールに近づいていく。距離のあるディスタンスシュートだけでなく、7mスローなどの至近距離のシュートでも反応で捕ってしまう。小学校の時はサッカーのGKで、中学からハンドボールのGKに転じた。サッカー時代の名残か、低めのボールには足よりも手から先にダイブするような捕り方をたまに見せる。
ほかにもフェンシングやボクシングの動きを参考にするなど、独自の感性でキーピングのスタイルを作り上げてきた。王道の捕り方ではないかもしれないが、GKの大原則「ボールに近づく」ことに関しては、リーグでもトップクラスと言っていい。
【気合入りまくり!】
藤戸と言えばガッツポーズ。ノーマークや7mスローを止めて、雄叫びを上げる。「ある種のルーティーンです」と言うように、これで自身も乗ってくるし、ベンチも盛り上がる。流れを変える究極の一発芸と言っていい。2月の日本選手権では水町孝太郎がMVPに選ばれたが、藤戸が選ばれてもおかしくなかった。それだけ準決勝、決勝でのパフォーマンスは素晴らしかった。
ガッツポーズの姿には、運動神経が意外と反映されやすい。藤戸の姿は、見るからに「動けるヤツ」のガッツポーズ。「バカになるくらい叫んでいます」と言うものの、コートの上でバカになれる存在は貴重。こういう選手がチームにプラスαをもたらす。
【スローイングもいい】
小柄で身のこなしがよく、スローイングもいい。中学からの先輩で、豊田合成でも一緒にプレーする野田祐希のアドバイスで、「ここに(パスを)出せばいい」イメージをつかんだという。攻撃力のある合成だが、速攻で右サイドの出村直嗣の決定力を上手に活用すれば、もっと楽に点が取れる。また左サイドには中尾俊介、津波古駿介ら若い選手が入ることが多いので、イージーな得点を取らせてあげることも重要になってくる。
DFの足が動いて、そのDFと連携して藤戸がいい位置取りからのセーブ。さらには速攻という流れが増えれば、ハイスコアになりがちな合成の試合展開も落ち着いてくるだろう。去年は初のプレーオフ出場で、チーム全体がやや浮足立っていた。藤戸のセーブと雄叫びが、「いつもの合成」の姿を思い出すきっかけになれば、プレーオフ初勝利、初制覇が現実味を帯びてくる。
久保弘毅
ドイツより meine Lieblingssachen