カテゴリー: 久保弘毅

  • ハンドボール日本代表紹介#2 永田美香(北國銀行)

    永田美香(北國銀行)
    永田美香(北國銀行)

    #2 永田美香(北國銀行)

    ・世界に対抗できるサイズの持ち主
     身長が180㎝もあって、なおかつ速攻で走れる脚力がある。日本の女子にはなかなかいなかった、動ける大型選手。四天王寺高を卒業して北國銀行に入った時点で、荷川取義浩監督は「2020年の東京五輪に向けて育てたい」と、永田(美)を早くから抜擢している。
    先行投資の甲斐あって、昨年あたりから目に見えて強さが増してきた。ライン際で相手を押し込み、ポストシュートで退場つきの得点を奪う。相手の動きを背中で感じ取るなど、コメントもレベルアップしている。北國銀行では押しも押されぬ主力に成長し、試合で慌てる後輩たちにさりげなく声をかけるなど、すべてにおいて視野が広くなった。

    あとは日本代表でポスト(PV)の定位置をつかむだけ。#3角南果帆と#28永田しおりの2人が盤石とはいえ、そこに割って入るだけの実力はついてきた。角南(果)の賢さだけでは厳しい時、永田(し)に退場がかさんだ時、永田(美)の出番になる。日本が好調だと、相手もライン際でまずポストを潰しにかかる。そういう時に永田(美)のサイズとパワーで対抗できたら、後半の苦しい時間帯も乗り切れる。

    期待したいプレーは、まずは速攻。チーム1の長身で、真ん中から飛び出し、速攻の先頭に立って走る姿は見ごたえがある。セットOFでは、北國の先輩#41河田知美との2対2。小さなテクニシャン・河田のシュートを手助けしながら、ポストパスをもらえるシーンが増えれば、日本の得点が伸びる。DFシステムの兼ね合いもあるが、6:0DFの中央で#24原希美、永田(し)の休憩時間を作ってくれるとありがたい。昨年のアジア選手権はケガで途中からベンチアウトになったので、ケガなく出続けることが第一。出場機会が増えるほどに、大きく成長しそう。

    久保弘毅

  • この選手が凄い! その13 吉田起子(オムロン)

    この選手が凄い! その13

    吉田起子
    吉田起子

    吉田起子(オムロン)
    【驚異のロングシューター】
     ロングシュートに限定すれば、日本リーグの女子ではナンバーワン。気持ちよく腕を振った時のシュートは、恐ろしいほどの速さでゴールに突き刺さる。高く跳べて、腕が長くてよくしなり、1試合打ち続けられる肩のスタミナがある。まさにエースになるべくして生まれてきた選手。いい時の吉田は間違いなくワールドクラスのロングシューター。日本の女子には数少ない「打ち込める」ポテンシャルを持っている。
     しかし好不調の波が激しく、ボールをもらってからのプレーが多い日は、まったくもって「らしさ」を発揮できないままに終わってしまう。黄慶泳総監督は「僕と吉田との根比べです」と言って、吉田をエースに育てるべく、我慢強く起用してきた。その甲斐あって得点王のタイトルを獲った年もあったが、歴代のオムロンのエースと比べると、信頼度はイマイチだった。

    【一芸枠でぜひ代表に!】
     しかし、最近は「いい吉田」が増えてきたと評判になっている。対戦相手からも「吉田が調子良すぎて、止められなかった」といったコメントが出てくるようになった。以前は「吉田なら守れる」イメージだったのに、「手がつけられない」日が増えてきた。黄慶泳総監督も「個人の意見だけど」と前置きしながら「吉田を代表に呼んでほしい」と言うようになった。
     現在の日本代表女子(おりひめジャパン)に足りないのはロングヒッター。7人攻撃で間を割って、数的優位を活かせる選手は揃っていても、ロングの怖さがない。熊本での世界選手権や来年の東京五輪を見据えて得点力アップを考えた場合に、世界で通用する打ち屋がほしい。その足りないピースに吉田がはまるかもしれない。
     シュートを打つ以外のことは、はっきり言って期待できない。でもOF限定で「5分間で2点取ってこい」が可能なタイプ。相手がべた引きで守ってきた時に、ベンチからひょいと出てきて、ロングを連発で決めてくれそうなのは、今の日本の女子では吉田か左腕の中山佳穂(大阪体育大)ぐらいだろう。

    吉田起子
    吉田起子

    【めっちゃいいヤツ】
     代表合宿にも何度か呼ばれてはいるが、大事な大会ではメンバー入りしていない。それでも仲間のことを思って応援する。2015年のリオデジャネイロ五輪予選ではコールリーダーになり、応援団と現場との調整役を買って出た。昨年12月の熊本アジア選手権でも、先頭に立って応援していた。おりひめジャパンの応援団長も「ゴー(吉田のコートネーム)は本当に頼りになる」と、吉田の人間性を高く評価している。
     普段から明るく、愉快なキャラクター。他チームの後輩たちから「笑いの神」と言われるくらい、人柄がいい。でも、できることなら、今年の世界選手権ではベンチに入ってほしい。徹底マークされても打ち抜ける強さをプレーオフで証明できれば、代表からもう一度声がかかるはず。世界の舞台でも、1本のシュートで流れを変えられる選手だ。

    久保弘毅

  • この選手が凄い! その12 千々波英明(大同特殊鋼)

    この選手が凄い! その12

    千々波英明
    千々波英明

    千々波英明(大同特殊鋼)
    【究極のトップDF】
     姜在源監督(現韓国女子代表監督)の時代に確立された大同の5:1DF。リーグ最高の「守り勝つ」フォーマットが今も成立しているのは、トップDFに千々波がいるから。長いリーチと豊富な運動量で、相手のパス回しのリズムを崩し、攻めの方向を限定する。大同と対戦する相手は誰もが「千々波さんのDF網をどうかいくぐるか」に頭を悩ませる。そして最終的には千々波1人にやられてしまう。
     姜在源監督が就任した当初のトップDFは富田恭介だった。しかし富田が移籍してからしばらくはトップDFの後任が見つからず、とっかえひっかえで試していた時期があった。そこに千々波がぴったりフィットした。日体大時代からDF専門で鍛えられ、トップDFとフルバックの両方をこなせる戦術眼があり、なによりも富田に負けないだけの長いリーチと運動量があった。そこから約10年。トップDFのスペシャリストとしての地位を確立し、今シーズン限りでの引退を表明した。
     
    【流れを読む力】
     日本代表にはあまり縁がなかったが、日本屈指のDFマスターと言っていい。「姜在源さんの的確な指導と、両45度にいた白元喆さん、地引貴志さん(現コーチ)や岸川英誉(現監督)との密度の濃い会話があって、今の自分があります」とのこと。両45度の強い1対1に支えられ、トップで自由に動き回り、パスコースに入るのが、理想の形だという。
     トップDFで躍動するだけでなく、DFでのリーダーシップが素晴らしい。ここ1本を守りたい場面では率先して声をかけて、チームを引き締める。千々波が後ろを振り向きながら手を叩き、チームの士気を高めている時は、試合の流れを左右する場面。短いひとことでチームの意思統一を図り、勝負どころの1本を守り勝つ。勝負の節目を誰よりも理解していて、流れを持ってくる術を知っている。ゲームリーディングも一流の選手だった。

    千々波英明
    千々波英明

    【直接ゴールが隠れた得意技】
     7人攻撃のルール改正以前から、直接ゴールを狙うのが得意。数年前の日本選手権では、琉球コラソンが後半残り10秒からGKの攻撃参加で同点に追いついたが、終了間際のスローオフから千々波が空っぽのゴールに投げ込み、決勝点を挙げている。
     ルール改正後も、相手の7人攻撃のミスを誘って、直接ゴールを決める場面が何度かあった。慌てて枠を外しがちな状況でも、落ち着いてゴールに投げ込むコントロールが頼もしい。イージーな得点を確実にものにするのが大同のよき伝統であり、短期決戦に強い理由のひとつでもある。千々波の後継者と目される吉田雄貴にも、こういった勝負どころの嗅覚を受け継いでもらえたら。

    久保弘毅

  • この選手が凄い! その11 門谷舞(広島メイプルレッズ)

    この選手が凄い! その11

    門谷舞
    門谷舞

    門谷舞(広島メイプルレッズ)
    【この戦力でよく勝っている】
     エースの李美京とポストの高山智恵が抜けて、苦戦が予想された今シーズンの広島メイプルレッズ。リーグが始まっても、攻撃力のある三田未稀、木村有沙が戦線離脱し、スピーディーかつ強気な動きで得点に絡んでいた近藤万春もダウンした。それでも高卒ルーキーの井内理絵、田渕美沙を起用しながら、メイプルはプレーオフ進出を決めている。無敗を誇る北國銀行との対戦では引き分けに持ち込み、貴重な勝ち点1をもぎ取った。
     手負いのチームをよくまとめているのが、今シーズンからキャプテンを務める門谷舞。「このメンバーでもプレーオフに行きたい」と、弱気になりがちな若いチームを奮い立たせてきた。
     
    【2枚目を任せられる守備力】
     はっきり言って、今のメイプルでセットOFでの得点力は期待できない。だからGK板野陽と6:0DFの真ん中4枚でひたすら守り勝つしかない。門谷は右の2枚目に入って、相手のエースを封じる。右サイドが本職の選手で、しかも左利きで、確かなDF力を持った選手は、日本の女子では貴重な存在。もう少しスピードがあれば、日本代表に選ばれてもおかしくない。
     以前も紹介したように、門谷と石川紗衣の2人が2枚目で高い守備力を発揮してくれるから、メイプルの6:0DFは成立している。この2人がいたから、メイプルは負けなかったと言っていい。徹底したDFで守り勝つ飛騨高山高の出身者らしく、強くて粘り強い守りで、チームを勝たせる。

    門谷舞
    門谷舞

    【人間性の素晴らしさ】
     本職は右サイドなのだが、この1年はチーム事情で右バックに入る時間が増えている。はっきり言って、ミドルシュートの威力は水準以下。無理やりやらされている感が強く、本人も苦しんでいたし、実際に数字もよくない。それでもチームのためにプレーを続け、自分がしんどくても周りに声をかけ続ける。コーチやOGは口を揃えて「門谷は本当によくやってくれている」と、彼女の頑張りをほめたたえる。
     最近は左から眞継麻礼、門谷、田渕の上3枚で回す時間帯も増えてきた。門谷がセンターに入ればポストへパスを落とせるし、眞継が得意のフェイントで左のアウトを割れる。右側に田渕を置いておけば、ベンチが近い時に交代しやすい。門谷への負担がさらに大きくなるが、この配置も悪くない。
     副キャプテンだった時代からハンドボールへの取り組みがよく、つねにチーム全体のことを考えて行動していた。今年はキャプテンで悩みながらも、若いチームを「自立」へと導いている。今年のメイプルの粘り強い戦いぶりは、キャプテンの人柄を反映していると言っていい。背負うものが多すぎて、キャプテンになった当初は、これまで決めていたシュートまで外していたこともあったが、元来は勝負強い選手。ロースコアの試合展開に持ち込んで、相手の息の根を止める1本を、プレーオフで見せてくれるか。

    久保弘毅

  • この選手が凄い! その10 藤戸量介(豊田合成)

    この選手が凄い! その10

    藤戸量介
    藤戸量介

    藤戸量介(豊田合成)
    【小柄だけどよく止める】
     日本リーグのGKでは最小の身長170cm。最低でも180cmはほしいと言われるGKのポジションで、このサイズで活躍できていること自体が奇跡。チーム内に坂井幹、佐々木亮輔、内定選手の中村匠と大きいGKが揃う中で、ひときわ異彩を放っている。
     小柄であるがゆえに、反応が鋭い。ボクサーのような構えから瞬時に飛び出し、ボールに近づいていく。距離のあるディスタンスシュートだけでなく、7mスローなどの至近距離のシュートでも反応で捕ってしまう。小学校の時はサッカーのGKで、中学からハンドボールのGKに転じた。サッカー時代の名残か、低めのボールには足よりも手から先にダイブするような捕り方をたまに見せる。
     ほかにもフェンシングやボクシングの動きを参考にするなど、独自の感性でキーピングのスタイルを作り上げてきた。王道の捕り方ではないかもしれないが、GKの大原則「ボールに近づく」ことに関しては、リーグでもトップクラスと言っていい。

    【気合入りまくり!】
     藤戸と言えばガッツポーズ。ノーマークや7mスローを止めて、雄叫びを上げる。「ある種のルーティーンです」と言うように、これで自身も乗ってくるし、ベンチも盛り上がる。流れを変える究極の一発芸と言っていい。2月の日本選手権では水町孝太郎がMVPに選ばれたが、藤戸が選ばれてもおかしくなかった。それだけ準決勝、決勝でのパフォーマンスは素晴らしかった。
     ガッツポーズの姿には、運動神経が意外と反映されやすい。藤戸の姿は、見るからに「動けるヤツ」のガッツポーズ。「バカになるくらい叫んでいます」と言うものの、コートの上でバカになれる存在は貴重。こういう選手がチームにプラスαをもたらす。

    【スローイングもいい】
     小柄で身のこなしがよく、スローイングもいい。中学からの先輩で、豊田合成でも一緒にプレーする野田祐希のアドバイスで、「ここに(パスを)出せばいい」イメージをつかんだという。攻撃力のある合成だが、速攻で右サイドの出村直嗣の決定力を上手に活用すれば、もっと楽に点が取れる。また左サイドには中尾俊介、津波古駿介ら若い選手が入ることが多いので、イージーな得点を取らせてあげることも重要になってくる。
     DFの足が動いて、そのDFと連携して藤戸がいい位置取りからのセーブ。さらには速攻という流れが増えれば、ハイスコアになりがちな合成の試合展開も落ち着いてくるだろう。去年は初のプレーオフ出場で、チーム全体がやや浮足立っていた。藤戸のセーブと雄叫びが、「いつもの合成」の姿を思い出すきっかけになれば、プレーオフ初勝利、初制覇が現実味を帯びてくる。

    藤戸量介
    藤戸量介

    久保弘毅

  • この選手が凄い! その9 河嶋英里(三重バイオレットアイリス)

    河嶋英里
    河嶋英里

    河嶋英里(三重バイオレットアイリス)

    【サイドからの切りが上手】
     サイドから切ってダブルポストになる「きっかけ」の動きがある。多くの選手は、ただ何となく目的地へ向かっている感じなのだが、河嶋は違う。「色んなところでスクリーンになれるよう意識しています」と言うように、行く先々で連鎖を起こしている。
    まず動き出しのタイミングがいい。パスをもらう選手と瞬時に2対2になりながら、DFの背後を嫌らしい距離感で走り抜ける。目の前のボールを持った選手と、裏を走る河嶋の両方が気になるから、DFは混乱する。放置しておいたら、最初の動き出しから即パスをもらってポストシュートに持ち込む。河嶋のプレーを見れば、サイド切りはスクリーンであり、広義でのクロスになるんだなと実感できる。

    【攻守のアクセントになる】
     他にも試合を見ていれば、河嶋が地味に効いている場面がそこかしこにある。たとえばDFから速攻に転じる場面で、司令塔の加藤夕貴が捕まった。そんな時に河嶋がスッと真ん中に走ってボールをつなぎ、速攻を展開する。バイオレットのゴールシーン集でも、速攻のフィニッシュの前段階で、河嶋がさりげなく絡んでいることが多い。
     守備面では5:1DFのトップになって、相手の攻撃のリズムを崩すのも得意。流れを変えたい時の重要なオプションのひとつでもある。最近は高い運動能力で華やかに動き回る細江みづきもトップDFで活躍しているが、河嶋の方がより地味にツボを押さえている。
    サイズ、シュート力、スピードといった一芸で考えると、まずスタメンの7人には選ばれないタイプ。でも試合の局面で「ここで河嶋がいてくれたら」と思わせるような「うま味」がある。ボールゲームの4局面をスムーズに回すには、河嶋のような「無形の力」を持った選手が欠かせない。

    【代表に選ばれないのは?】
     巧くてクレバーな選手だけど、なかなか日本代表には選ばれない。いつも候補止まりで、悔しい思いをしている。このあたりは左サイドに求められる役割が、日本代表と三重とで違うからだと思われる。
     日本代表のウルリック・キルケリー監督は、センターの横嶋彩(北國銀行)を6:0DFの1枚目に入れて、速攻での得点を増やしたいと考えている。横嶋のサイズを補完するために、左サイドにはまず2枚目を守れるスケールが求められる。次に日本代表はセットOFで7人攻撃を多用するので、両サイドは細かい動きよりもフィニッシャーに徹することが求められる。
     シュート力とサイズだけで評価されると、河嶋は「物足りない」扱いになってしまう。しかし櫛田亮介監督率いる三重では、攻撃の起点であり、速攻のつなぎ役であり、DFのアクセントである。そうなると河嶋のクレバーさが活きてくる。代表と三重とどっちがいいとかではなく、そこは監督のハンドボール観の違い。また昔よりも女子のレベルが上がり、日本代表のメンバー選考に選択の余地が出てきたとも言える。河嶋は求められる場所で、細かい仕事を丁寧にすればいい。ハンドボール好きには「河嶋のプレーが好き」と言う人が多い。

    河嶋英里

  • おりひめジャパンの布陣

    おりひめジャパンの布陣

     30日から熊本で始まった女子アジア選手権へ向けて、日本協会のFaceBookにポジションごとの顔写真が掲載されました。なかなかよくできているので、こちらを御覧ください。
    https://www.facebook.com/406719829403678/photos/a.438999459509048/1941184769290502/?type=3&theater

     このメンバー表を元に、各ポジションを見ていきましょう。

    LW:今大会で最も大事になってくるポジションです。世界選手権で活躍した松村杏里(ソニー)がいない分を、どうカバーするか。7人攻撃のフィニッシュを確実に決めて、なおかつ6:0DFで左の2枚目が守れる選手がいないと、攻守のバランスが崩れてしまいます。
    2枚目を守れる守備力ということでは、ヒザのケガから戻ってきた田邉夕貴(北國銀行)が第一候補。ウルリック体制初期のメンバーでもあり、語学力もあるのが強みです。課題だった「勝負どころでの1本」を決めてくれれば、チームに勢いがつきます。
    田邉にない勝負強さを持っているのが勝連智恵(オムロン)。2枚目を守れるサイズはありませんが、大事なところで1本決めてくれるしぶとさがあります。左側がベンチに近い時は、2枚目に守備要員を入れて、勝連のクラッチシュートに期待してもいいでしょう。前回のアジア選手権の準決勝・中国戦でも、終盤に同点シュートを決めています。
    田邉、勝連以外にも、攻守のバランスを整える意味では、センターの大山真奈(北國銀行)が左サイドに回って、2枚目を守るという選択肢もあります。

    勝連
    勝連

    昨年のアジア選手権準決勝(中国戦)での、勝連の同点シュート

    LB:エースポジションはキャプテン原希美(三重)の体調次第。試合の入りを落ち着かせるためにも、スタートは原になる可能性が高いと思われます。ヒザの回復がやや遅れていましたが、以前よりも打点の高いミドルが打ち込めるようになってきました。エースポジションでアウトスペースを割って、守っても3枚目で積極的に前に仕掛けてと、攻守にチームを背負えるタフさが原の持ち味です。
     攻撃面の上積みという意味では、大学生の渡部真綾(東海大)に期待したいところ。チーム全体にある程度守れるメドが立ってきたので、遠くから打ち込める若手を融合させていくのが、次への課題になります。原で攻守のバランスを整えつつ、点の欲しい場面で渡部を効果的に使うのが理想の形。ロングだけでなく、強靭な体を活かしたカットインでも、相手にダメージを与えてくれる選手です。
     塩田沙代(北國銀行)はエースというよりは、2枚目、3枚目の両方を守れる有能なバックアップ。ここ1~2年でおどおどした感じがなくなり、2次速攻でも迷いなく打ち込める強さが出てきました。

    原

    キャプテンの原は攻守に体を張って、チームを引っ張る

    CB:メインはもちろん横嶋彩(北國銀行)。国内だと打ちながらリズムを取る司令塔ですが、国際大会では我慢強くボールを回して、最後の最後に間をこじ開けます。国内向けと海外仕様のプレースタイルを使い分けられるようになって、本物のセンターに近づいてきました。DFでは左の1枚目に入り、速攻での展開力やフィニッシュで、チームの得点を伸ばしてくれるでしょう。
     2番手にはベテランの石立真悠子(JJ・GANG)がいたのですが、アジア大会でヒザを負傷し、今回は欠場。石立のような「セットOFで流れを変える」役割は、大山真奈(北國銀行)に頼るしかありません。横嶋よりもゲームメイカーらしい選手だし、2枚目を守れる力もあります。今大会は大山が左サイドとセンターの両方で、すべての穴を埋めるくらいの活躍をしてもらわないと困ります。それだけ重要な「8番目の選手」の位置づけです。
     初選出の石井優花(オムロン)は攻撃力のある司令塔。大学時代の奔放な得点力が発揮できれば、代表でも戦力になるはずです。

    横嶋彩
    横嶋彩

    横嶋は世界での戦い方を覚えて、いいセンターになった

    RB:左利きの角南唯(ニュークビン/デンマーク)と右利きの多田仁美(三重)を使い分けるポジション。メインの角南唯は、ワイドな位置取りからゴールに向かって一直線に間を割って得点します。多田はちょっとイン寄りの位置取りから、強引に間を割ります。角南唯の正しい位置取りに相手が慣れたところで多田を投入すると、相手がたまに混乱するのがハンドボールの面白いところ。昨年の世界選手権メインラウンド1回戦(オランダ戦)で延長戦に持ち込めたのは、途中出場した多田の得点力のおかげでした。前日まで全然当たっていなかったのに、大事な場面で器用したウルリック・キルケリー監督も凄かったし、期待に応えた多田も見事でした。
     角南唯の正しい位置取りと無理のないカットインを味わいつつ、どのタイミングで多田が理屈を超越したゴリゴリカットインを炸裂させるかに注目してください。

    角南唯
    角南唯

    角南唯の位置取りは美しい

    RW:日本のストロングポイントです。池原綾香(ニュークビン/デンマーク)が高確率で決めてくれるから、日本の7人攻撃が機能します。たとえシュートを外したとしても、堂々とした彼女の振る舞いに、誰もが「次は必ず決めてくれる」と信じられます。角南唯からのラストパスだけでなく、2人のスカイプレーなど、左利き2人のコンビネーションは日本の貴重な得点源です。
     今シーズンからドイツに渡った藤田明日香(ドルトムント/ドイツ)も、本場で揉まれた成果を見せてくれるはず。速攻のスピード、シュートフォームの美しさだけでなく、ここ一番で決め切る強さが出てくれば、このポジションは盤石です。
     秋山なつみ(北國銀行)は右バックと右サイド両方のバックアップ。技術はありますが、場馴れするのに時間がかかるタイプなので、早い段階で経験させておいた方がいいかもしれません。

    池原綾香
    池原綾香

    池原は本当にたくましくなった

    PV:信頼できるメンツが揃っています。副将の永田しおり(オムロン)は攻守に体を張り、角南果帆(ソニー)は色んな選手と2対2ができます。永田美香(北國銀行)は今年に入って強さが増してきました。堀川真奈(広島)はサイズの割には脚力があります。
     永田しおりは2011年からずっと日本代表に定着しているDFリーダー。永田しおりと原が真ん中にいると、どんなDFシステムでも安心です。大きい相手にもひるまずコンタクトする分、退場のリスクがつきまといますが、そこで永田美香が成長した姿を見せてくれたら、日本の未来につながります。
    角南果帆はクレバーな選手で、DFでは2枚目に入って上手に駆け引きします。特にオープンDFになった時の角南姉妹の運動量は要注目です。攻撃でも、くさびになる永田しおりと、動いて合わせる角南果帆の使い分けが見どころのひとつ。2人が揃ってライン際で仕事をするから、おりひめジャパンの7人攻撃は必ずプラス1を作れます。

    永田しおり
    永田しおり

    永田しおりは守りの要。当たりの強さと危機管理能力はチーム随一

    GK:ノルウェー出身の亀谷さくら(ニュークビン/デンマーク)は、女子日本代表で歴代最高クラスの守護神。当たりまくる日の迫力は間違いなくワールドクラスです。ただし何試合かに1回は「全然当たらない日」が出てくるので、そのエアポケットの時間帯をどうフォローしていくかが課題です。
     やっぱり信頼できるのが41歳の飛田季実子(ソニー)。パッと使われても、すぐに仕事をして、チームを落ち着かせます。技術、人柄ともに「おりひめジャパン最後の砦」と言っていい人物です。仮にベンチから外れたとしても、素晴らしい人間性で若手を支えてくれます。
     日本の将来のために育成中なのが板野陽(広島)。ぐにゃぐにゃと長い手足でよく止めます。柔らかいから予測不能な捕り方をする反面、スローイングでは長い手足を上手に使いこなせないところがあります。それでも心身共に強くなってきているので、できるだけ多くの経験を積んでほしいGKです。

    亀谷さくら
    亀谷さくら

    韓国、中国、カザフスタンに勝つには、亀谷さくらの爆発力が欠かせない

    スタッフ:ウルリック・キルケリー監督は、いつの間にか選手たちをいい方向に導く、不思議な能力を持っています。この2年間で、選手全員の語学力が上がったのは、キルケリー監督の隠れた功績と言っていいでしょう。戦術面の細かいニュアンスを詰めるのが、櫛田亮介コーチ(三重監督)の仕事。ドイツでのプレー経験があるので、ヨーロッパのハンドボール観を汲み取り、意訳できる人物です。今回からベンチに入るアントニ・パレツキGKコーチの手腕にも注目です。

    久保弘毅

  • おりひめジャパン代表合宿

    おりひめジャパン代表合宿

     11月15日に東京のナショナルトレーニングセンターで、ハンドボール女子日本代表(おりひめジャパン)の公開練習と記者会見が行われました。30日から始まる熊本でのアジア選手権を前に、くまもんが応援に駆けつけるなど、注目度の高い公開練習になりました。

    おりひめジャパン
    おりひめジャパン

     練習終わりのストレッチに乱入するくまもん。選手1人ひとりとハイタッチをして、コミュニケーションを取っていました。

    くまモン
    くまモン

     今回のアジア選手権は、1年後の熊本世界選手権のプレ大会でもあります。世界選手権のポスターも完成しました。なかなかオシャレで、気の利いたフレーズが入っています。左のポスターには「誰がゴリひめじゃい?」の文字が。ちなみに二の腕のモデルは、GGS(ゴリゴリシスターズ)のリーダー・多田仁美(三重)という奇跡の一致。GGSの「おりひめジャパンをゴリひめジャパンにしたい」との野望が、一歩前進しました。「誰がゴリひめじゃい?」「私だよ!」

    くまモン
    くまモン

     「お手てでつなぐ希望。」の方は、モデルが横嶋彩(北國銀行)。証拠写真はこちら。

    おりひめジャパン
    おりひめジャパン

     記者会見では、ウルリック・キルケリー監督が「この1年でいい準備ができた。どこが相手でも勝って、アジアのチャンピオンになりたい」と、アジア選手権への抱負を語りました。就任当初の「我々には経験が必要だ」と繰り返していた頃とは、自信の程が違います。オーソドックスな6:0DFに、栗山雅倫前監督から受け継いだオープンDF、さらにはもう一種類の計3つのDFシステムが、おりひめジャパンのストロングポイントです。

    おりひめジャパン
    おりひめジャパン

     キャプテンの原希美(三重)のスピーチ。彼女のしゃべりには、いつも感心させられます。入りの「こんにちは」から柔らかなトーンで、自分の思いを伝えてくれます。口先だけの「感謝の気持ち」ではなく、自分の言葉で話しかけてくるから、彼女の言う「感謝の気持ち」は、ストンと腹に落ちるのです。

    おりひめジャパン
    おりひめジャパン

     ウルリックがもう1人増えたのか!? いいえ、今回からGKコーチのアントニ・パレツキコーチがベンチ入りします。昨年の世界選手権では、デンマーク代表のコーチとして、キルケリー監督が率いた日本代表と対戦しています。キルケリー監督とはデンマークリーグで共にプレーしていた旧知の仲。デンマーク男子の名GK二コラス・ランディンを指導したこともある、腕利きのGKコーチです。ウルリックがしれっとビッグネームをスカウトしてきました。

    おりひめジャパン
    おりひめジャパン

     パレツキコーチの愛称は「アンテック」。GKの板野陽(広島)によると「練習のバリエーションが豊富で、今までメニューがかぶったことがないくらい。ただ動くだけでなく、頭を使ったり、手と足を別々に動かす練習が多いので、いい刺激になっています」とのこと。教える内容はごく基本的なことが中心。「いい位置取りをして、いいバランスを保って、そこから体ごと捕りに行け。GKはスペシャルなポジションだから、技術、体力、ハンドボールの理解と、すべてにおいてチームのスペシャルであってほしい」と、パレツキコーチは語っていました。

    おりひめジャパン
    おりひめジャパン

     ウルリックとアンテックに櫛田亮介コーチ(三重)の3人が揃うと、輝きが違いますね。天の川のようなきらめきで、おりひめジャパンを勝利に導いてくれることでしょう。

    おりひめジャパン
    おりひめジャパン

    女子のアジア選手権は11月30日から熊本で開催されます。予選ラウンド最終日(12月5日)のカザフスタン戦に勝って、A組1位で決勝トーナメントへ進出するのは最低条件。アジア大会で1点差で敗れた中国、アジアNO.1の韓国に勝って、目指すはアジアの頂点です。来年の世界選手権への出場権はすでに確定していますが、開催国のプライドを結果で示してほしいところです。

     第17回女子アジア選手権の公式HPはこちら。
    https://japanhandball2019.com/asian-championship-2018/

    久保弘毅

  • この選手が凄い! その7 河田知美(北國銀行)

    この選手が凄い! その7

    河田知美
    河田知美

    河田知美(北國銀行)
    【小さくても点が取れる】
     小柄な点取り屋として、学生時代から評判だった。北國銀行に入ってからも本職の左バックだけでなく、左サイドでも得点を重ね、中心選手になった。カットインができて、ロングも打てて、2対2の理屈がわかっているから横にずらしたり、ポストを見ながらプレーできる。攻撃に関しては非の打ちどころがない。
    アンダーサイズな点取り屋は、上のカテゴリーでセンターに回されがちだが、荷川取義浩監督にエースで育ててもらえたのは、河田にとって幸運だった。荷川取監督は「河田は技を持っている」と言い、河田を効果的に起用している。DFでのサイズ不足を補完してくれる大型サイドの田邉夕貴が隣にいたこともよかった。かつての横嶋かおるなど、荷川取監督は、小柄でもハンドボールを分かっている選手を抜擢するのが上手い。

    【サイズ不足を補う工夫】
     身長160cm(公称)だが、9mの外からロングシュートを決め切れる。得意技は落ち際で放つロング。小さいから最高到達点で打とうとするのではなく、そこから落ちてきたタイミングでコースに打ち分ける。DFも落ちてきているタイミングだから、シュートブロックに引っかからない。どういうタイミングでジャンプして、どのようにして滞空時間を保っているのかはわからないが、「1人時間差攻撃」のようなズレを生み出す。
     また7mスローを担当する際には、7mのラインより少し下がって、シュートコースを確保する。「私みたいな小さい人間は、国内からそういった工夫をしないと生き残れません」とのこと。その工夫は国際大会でも役に立っている。河田が7mスローを打つ時は、立ち位置に注目を。

    【素敵な僧帽筋】
     小さくても投球動作がしっかりしている河田は、シュートフォームが美しい。両ヒジが少し背中側に入った、羽ばたくようなテークバックから、強いシュートを打ち込む。野球の投手で言えば東明大貴(オリックス)のような、質のいい真っすぐが投げられるフォーム。肩甲骨周辺の柔らかさはリーグ屈指。柔らかさだけなら山野由美子(ソニーセミコンダクタマニュファクチャリング)もいるが、柔らかさと強さの両方となると、河田が一番だろう。
     強さの源は、しっかりと発達した僧帽筋。小顔だから余計に、首から肩にかけての筋肉が目立つ。日本のフィジカルに優れた女子選手で結成しているGGS(ゴリゴリしスターズ)の一員。当初は「筋肉不足」と入会を見送られていたが、素晴らしい僧帽筋が認められ、晴れてメンバー入りを果たした。

    久保弘毅

  • この選手が凄い! その8 髙宮咲(HC名古屋)

    この選手が凄い! その8

    髙宮咲
    髙宮咲

    髙宮咲(HC名古屋)
    【天性のリーダーシップ】
     HC名古屋はここ2年ほどで強くなった。若くて戦術眼に優れた新井翔太ヘッドコーチがチームを立て直し、いい新人が入るようになった。若くて勢いのあるチームをまとめているのが、4年目の髙宮。1年目からリーダーシップを発揮し、髙宮を慕ってセンターの笠原有紗ら好素材が名古屋に集まり出した。
     以前の名古屋は、まじめで人柄のいい選手が集まっていたが、リーダータイプの人間がいなかった。そこに髙宮が入り、また髙宮の同期にDFの要の水谷百香がいたことで、チームの柱ができた。チームが強くなる過程では、こういう髙宮のような求心力を持った選手が必要不可欠。かつて弱かった三重バイオレットアイリスも、漆畑美沙というリーダーがいたことで、力のある後輩が集まり、櫛田亮介監督体制で花開いた。HC名古屋も髙宮を中心にまとまれば、初のプレーオフへの道が開けるだろう。

    【2ポジションで役に立つ】
     右サイドが本職ではあるが、新井ヘッドが就任してからは右バックでの起用が増えている。インに回り込んでのミドルに、器用なパスさばきなど、左利きの利点を生かしてセットOFをスムーズにしている。
     現役時代センターだった新井ヘッドは、ゲームメイカーにこだわりを持っている。チーム内には絶対的な司令塔・笠原がいるが、新井ヘッドは「最もセンターらしい性格をしているのは髙宮」と言い、右バックに置くことで髙宮の冷静、視野の広さを引き出している。新井ヘッドはまた「デシジョンメイカー(意思決定者)は必ずしもセンターである必要はない」とも言っている。突破力がありながら時に熱くなりがちなセンターの笠原を、先輩の髙宮がフォローし、判断の手助けをするのが理想の形。今シーズンは笠原も突発的なパスミスがかなり減り、司令塔として1つレベルが上がってきた。その裏には、冷静にチーム全体を見られる髙宮の存在があると思われる。
     
    【HC名古屋に久々に登場した代表選手】
     リーグでの活躍が認められ、髙宮は今年から日本代表に呼ばれるようになった。HC名古屋から代表選手が出たのは久しぶりのこと。記憶に残っている範囲では、2007年前後に佐藤由紀恵が代表合宿に参加して以来か。
     出身地の群馬での代表戦にこそ出場できなかったが、その後のトライアルゲームに出場し、代表活動で得た刺激をチームに還元している。ちなみに新井ヘッドも女子ジュニア(U-20)日本代表のコーチに呼ばれている。HC名古屋と世界との接点が増えてきたのはいい傾向。

    【追記】残念ながら10月下旬の試合でヒザを痛めて、長期離脱の見通し。初のプレーオフ進出を目指していたHC名古屋にとっては大きな痛手だが、髙宮はコート外からも積極的に声をかけている。視野が広くて、フォアザチームの意識が徹底している選手。たとえコートに立てなくても、チームにいい影響を及ぼしてくれるに違いない。

    髙宮咲選手は今シーズンのmelis契約選手です。

    久保弘毅