おりひめジャパンの布陣

おりひめジャパンの布陣

 30日から熊本で始まった女子アジア選手権へ向けて、日本協会のFaceBookにポジションごとの顔写真が掲載されました。なかなかよくできているので、こちらを御覧ください。
https://www.facebook.com/406719829403678/photos/a.438999459509048/1941184769290502/?type=3&theater

 このメンバー表を元に、各ポジションを見ていきましょう。

LW:今大会で最も大事になってくるポジションです。世界選手権で活躍した松村杏里(ソニー)がいない分を、どうカバーするか。7人攻撃のフィニッシュを確実に決めて、なおかつ6:0DFで左の2枚目が守れる選手がいないと、攻守のバランスが崩れてしまいます。
2枚目を守れる守備力ということでは、ヒザのケガから戻ってきた田邉夕貴(北國銀行)が第一候補。ウルリック体制初期のメンバーでもあり、語学力もあるのが強みです。課題だった「勝負どころでの1本」を決めてくれれば、チームに勢いがつきます。
田邉にない勝負強さを持っているのが勝連智恵(オムロン)。2枚目を守れるサイズはありませんが、大事なところで1本決めてくれるしぶとさがあります。左側がベンチに近い時は、2枚目に守備要員を入れて、勝連のクラッチシュートに期待してもいいでしょう。前回のアジア選手権の準決勝・中国戦でも、終盤に同点シュートを決めています。
田邉、勝連以外にも、攻守のバランスを整える意味では、センターの大山真奈(北國銀行)が左サイドに回って、2枚目を守るという選択肢もあります。

勝連
勝連

昨年のアジア選手権準決勝(中国戦)での、勝連の同点シュート

LB:エースポジションはキャプテン原希美(三重)の体調次第。試合の入りを落ち着かせるためにも、スタートは原になる可能性が高いと思われます。ヒザの回復がやや遅れていましたが、以前よりも打点の高いミドルが打ち込めるようになってきました。エースポジションでアウトスペースを割って、守っても3枚目で積極的に前に仕掛けてと、攻守にチームを背負えるタフさが原の持ち味です。
 攻撃面の上積みという意味では、大学生の渡部真綾(東海大)に期待したいところ。チーム全体にある程度守れるメドが立ってきたので、遠くから打ち込める若手を融合させていくのが、次への課題になります。原で攻守のバランスを整えつつ、点の欲しい場面で渡部を効果的に使うのが理想の形。ロングだけでなく、強靭な体を活かしたカットインでも、相手にダメージを与えてくれる選手です。
 塩田沙代(北國銀行)はエースというよりは、2枚目、3枚目の両方を守れる有能なバックアップ。ここ1~2年でおどおどした感じがなくなり、2次速攻でも迷いなく打ち込める強さが出てきました。

原

キャプテンの原は攻守に体を張って、チームを引っ張る

CB:メインはもちろん横嶋彩(北國銀行)。国内だと打ちながらリズムを取る司令塔ですが、国際大会では我慢強くボールを回して、最後の最後に間をこじ開けます。国内向けと海外仕様のプレースタイルを使い分けられるようになって、本物のセンターに近づいてきました。DFでは左の1枚目に入り、速攻での展開力やフィニッシュで、チームの得点を伸ばしてくれるでしょう。
 2番手にはベテランの石立真悠子(JJ・GANG)がいたのですが、アジア大会でヒザを負傷し、今回は欠場。石立のような「セットOFで流れを変える」役割は、大山真奈(北國銀行)に頼るしかありません。横嶋よりもゲームメイカーらしい選手だし、2枚目を守れる力もあります。今大会は大山が左サイドとセンターの両方で、すべての穴を埋めるくらいの活躍をしてもらわないと困ります。それだけ重要な「8番目の選手」の位置づけです。
 初選出の石井優花(オムロン)は攻撃力のある司令塔。大学時代の奔放な得点力が発揮できれば、代表でも戦力になるはずです。

横嶋彩
横嶋彩

横嶋は世界での戦い方を覚えて、いいセンターになった

RB:左利きの角南唯(ニュークビン/デンマーク)と右利きの多田仁美(三重)を使い分けるポジション。メインの角南唯は、ワイドな位置取りからゴールに向かって一直線に間を割って得点します。多田はちょっとイン寄りの位置取りから、強引に間を割ります。角南唯の正しい位置取りに相手が慣れたところで多田を投入すると、相手がたまに混乱するのがハンドボールの面白いところ。昨年の世界選手権メインラウンド1回戦(オランダ戦)で延長戦に持ち込めたのは、途中出場した多田の得点力のおかげでした。前日まで全然当たっていなかったのに、大事な場面で器用したウルリック・キルケリー監督も凄かったし、期待に応えた多田も見事でした。
 角南唯の正しい位置取りと無理のないカットインを味わいつつ、どのタイミングで多田が理屈を超越したゴリゴリカットインを炸裂させるかに注目してください。

角南唯
角南唯

角南唯の位置取りは美しい

RW:日本のストロングポイントです。池原綾香(ニュークビン/デンマーク)が高確率で決めてくれるから、日本の7人攻撃が機能します。たとえシュートを外したとしても、堂々とした彼女の振る舞いに、誰もが「次は必ず決めてくれる」と信じられます。角南唯からのラストパスだけでなく、2人のスカイプレーなど、左利き2人のコンビネーションは日本の貴重な得点源です。
 今シーズンからドイツに渡った藤田明日香(ドルトムント/ドイツ)も、本場で揉まれた成果を見せてくれるはず。速攻のスピード、シュートフォームの美しさだけでなく、ここ一番で決め切る強さが出てくれば、このポジションは盤石です。
 秋山なつみ(北國銀行)は右バックと右サイド両方のバックアップ。技術はありますが、場馴れするのに時間がかかるタイプなので、早い段階で経験させておいた方がいいかもしれません。

池原綾香
池原綾香

池原は本当にたくましくなった

PV:信頼できるメンツが揃っています。副将の永田しおり(オムロン)は攻守に体を張り、角南果帆(ソニー)は色んな選手と2対2ができます。永田美香(北國銀行)は今年に入って強さが増してきました。堀川真奈(広島)はサイズの割には脚力があります。
 永田しおりは2011年からずっと日本代表に定着しているDFリーダー。永田しおりと原が真ん中にいると、どんなDFシステムでも安心です。大きい相手にもひるまずコンタクトする分、退場のリスクがつきまといますが、そこで永田美香が成長した姿を見せてくれたら、日本の未来につながります。
角南果帆はクレバーな選手で、DFでは2枚目に入って上手に駆け引きします。特にオープンDFになった時の角南姉妹の運動量は要注目です。攻撃でも、くさびになる永田しおりと、動いて合わせる角南果帆の使い分けが見どころのひとつ。2人が揃ってライン際で仕事をするから、おりひめジャパンの7人攻撃は必ずプラス1を作れます。

永田しおり
永田しおり

永田しおりは守りの要。当たりの強さと危機管理能力はチーム随一

GK:ノルウェー出身の亀谷さくら(ニュークビン/デンマーク)は、女子日本代表で歴代最高クラスの守護神。当たりまくる日の迫力は間違いなくワールドクラスです。ただし何試合かに1回は「全然当たらない日」が出てくるので、そのエアポケットの時間帯をどうフォローしていくかが課題です。
 やっぱり信頼できるのが41歳の飛田季実子(ソニー)。パッと使われても、すぐに仕事をして、チームを落ち着かせます。技術、人柄ともに「おりひめジャパン最後の砦」と言っていい人物です。仮にベンチから外れたとしても、素晴らしい人間性で若手を支えてくれます。
 日本の将来のために育成中なのが板野陽(広島)。ぐにゃぐにゃと長い手足でよく止めます。柔らかいから予測不能な捕り方をする反面、スローイングでは長い手足を上手に使いこなせないところがあります。それでも心身共に強くなってきているので、できるだけ多くの経験を積んでほしいGKです。

亀谷さくら
亀谷さくら

韓国、中国、カザフスタンに勝つには、亀谷さくらの爆発力が欠かせない

スタッフ:ウルリック・キルケリー監督は、いつの間にか選手たちをいい方向に導く、不思議な能力を持っています。この2年間で、選手全員の語学力が上がったのは、キルケリー監督の隠れた功績と言っていいでしょう。戦術面の細かいニュアンスを詰めるのが、櫛田亮介コーチ(三重監督)の仕事。ドイツでのプレー経験があるので、ヨーロッパのハンドボール観を汲み取り、意訳できる人物です。今回からベンチに入るアントニ・パレツキGKコーチの手腕にも注目です。

久保弘毅