この選手が凄い! その12 千々波英明(大同特殊鋼)

この選手が凄い! その12

千々波英明
千々波英明

千々波英明(大同特殊鋼)
【究極のトップDF】
 姜在源監督(現韓国女子代表監督)の時代に確立された大同の5:1DF。リーグ最高の「守り勝つ」フォーマットが今も成立しているのは、トップDFに千々波がいるから。長いリーチと豊富な運動量で、相手のパス回しのリズムを崩し、攻めの方向を限定する。大同と対戦する相手は誰もが「千々波さんのDF網をどうかいくぐるか」に頭を悩ませる。そして最終的には千々波1人にやられてしまう。
 姜在源監督が就任した当初のトップDFは富田恭介だった。しかし富田が移籍してからしばらくはトップDFの後任が見つからず、とっかえひっかえで試していた時期があった。そこに千々波がぴったりフィットした。日体大時代からDF専門で鍛えられ、トップDFとフルバックの両方をこなせる戦術眼があり、なによりも富田に負けないだけの長いリーチと運動量があった。そこから約10年。トップDFのスペシャリストとしての地位を確立し、今シーズン限りでの引退を表明した。
 
【流れを読む力】
 日本代表にはあまり縁がなかったが、日本屈指のDFマスターと言っていい。「姜在源さんの的確な指導と、両45度にいた白元喆さん、地引貴志さん(現コーチ)や岸川英誉(現監督)との密度の濃い会話があって、今の自分があります」とのこと。両45度の強い1対1に支えられ、トップで自由に動き回り、パスコースに入るのが、理想の形だという。
 トップDFで躍動するだけでなく、DFでのリーダーシップが素晴らしい。ここ1本を守りたい場面では率先して声をかけて、チームを引き締める。千々波が後ろを振り向きながら手を叩き、チームの士気を高めている時は、試合の流れを左右する場面。短いひとことでチームの意思統一を図り、勝負どころの1本を守り勝つ。勝負の節目を誰よりも理解していて、流れを持ってくる術を知っている。ゲームリーディングも一流の選手だった。

千々波英明
千々波英明

【直接ゴールが隠れた得意技】
 7人攻撃のルール改正以前から、直接ゴールを狙うのが得意。数年前の日本選手権では、琉球コラソンが後半残り10秒からGKの攻撃参加で同点に追いついたが、終了間際のスローオフから千々波が空っぽのゴールに投げ込み、決勝点を挙げている。
 ルール改正後も、相手の7人攻撃のミスを誘って、直接ゴールを決める場面が何度かあった。慌てて枠を外しがちな状況でも、落ち着いてゴールに投げ込むコントロールが頼もしい。イージーな得点を確実にものにするのが大同のよき伝統であり、短期決戦に強い理由のひとつでもある。千々波の後継者と目される吉田雄貴にも、こういった勝負どころの嗅覚を受け継いでもらえたら。

久保弘毅