#5 (北國銀行)
・そろばん少女、日本代表になる
珠算7段。暗算7段。そろばんをやるつもりで高松商業に入ったのに、背が高いからハンドボール部に誘われ、ついには日本代表に定着するまでになった。最近は小学生からハンドボールをする子が増えたが、高校から始めて日本代表になれる「一発逆転」があるから、ハンドボールは面白い。
日本代表では主にDF要員。6:0DFの2枚目、3枚目の両方で貢献してくれる。2枚目に塩田が入ると、サイズ感が増し、運動量でも期待できる。3枚目なら枝(両手)でシュートコースを消して、GKと連携する。相手の突進を正面から受け止め、オフェンスファウルを誘うのも得意技のひとつ。体を張ったプレーが持ち味だったが、近年はパスカットにも磨きがかかり、パスコースに長い手を伸ばして、速攻に転じるシーンが増えてきた。「当たる」と「奪う」の切り替えが絶妙。
DFの人のイメージが強かったが、コンディションが良くなった最近は、OFでも頑張っている。右バック(RB)からこじゃれたステップシュートを打つなど、意表をつく得点が増えてきた。目が大きいからか、以前はシュートの時に悲しそうな表情に見えたが、着実に経験を重ねて、今ではゴールを見据える目に強さが宿るようになった。本当に強くなったと思う。
DFのバックアップとして、2枚目、3枚目の両方で、主力の負担を軽減してほしい。できれば、パスカットからの速攻が1本あれば、チームも盛り上がる。ベンチに近い側のポジションに入り、そつなく守って、試合を落ち着かせる。ハンドボール歴も15年になったベテランの働きに期待。
久保弘毅
・しなやかな姉
角南姉妹の姉は、しなやかな左利き。正しい位置取りからDFを広げて、右バック(RB)から真っすぐゴールに切れ込む。少しの隙間でもするすると抜けて、フィニッシュまで持ち込める。「位置取りにはこだわっています」と言うように、サイドラインいっぱいに立つポジショニングが生命線。ストレートにゴールを狙えて、なおかつ右サイド(RW)へのパスも邪魔されない。左利きの右バックのお手本とも言うべき、「位置取りで世界に勝つ」選手だ。
カットインの素晴らしさはワールドクラス。ただ、ステップシュートやミドルシュートは少々弱い。昨季は1年間デンマークでプレーしたが、9mから打ち切れない弱さもあり、出場時間を増やせなかった。日本代表ではそのあたりを#36中山佳穂と役割分担できれば、問題ないだろう。カットインが得意で、ポストが見えている角南(唯)。角度のあるロングシュートが打てる中山。この2人の左利きがそれぞれに良さを発揮すれば、日本の得点力は大幅にアップする。
ソフトなイメージがある選手だが、DFでは想像以上にハードワークする。特にオープンDFになった時に、足を使って広いスペースをカバーする。相手のエースと対峙するポジションなので、角南(唯)の運動量は勝敗を分けるポイントのひとつになる。しつこく足でついていき、時には反対側まで守りにいくことも。
期待したいのは、RW#21池原綾香とのコンビネーション。2年前の世界選手権は、角南(唯)のアシストがあって、池原のシュート決定率が8割を超えた。今回は池原のコンディション次第だが、一緒にコートに立てば、阿吽の呼吸で得点機を作り出す。池原から角南(唯)に戻すスカイプレーも見せ場のひとつ。
久保弘毅
・賢い妹
角南姉妹の妹は、ライン際でのクレバーな動きが信条。バックプレーヤーと2対2をしながら、裏で攻撃を組み立てる。味方にスペースを作るためにスクリーンをかけたり、対角からのポストパスをもらったり、理にかなった動きで得点に絡む。スクリーンをかけていたかと思いきや、パッと離れてDFを置き去りにして、ノーマークになるのも上手。
日本代表のウルリック・キルケリーは7人攻撃を多用するが、7人攻撃が高確率で決まるのは、角南(果)と#28永田しおりの2人のポスト(PV)がしっかりしているから。重さで勝負する永田(し)がくさびになり、機動力で勝負する角南(果)が動き出し、局所の2対1を作り出す。いわゆるプラス1(数的優位)を作ることにかけては、国内随一のポストプレーヤーと言っていい。
メンバーの配置の関係で、代表ではDFに出る機会があまり多くないが、守備力も素晴らしい。特にオープンDF(上と下を分ける3:3DFのような形)の時には、前でいい仕事をする。セットOFからの戻りでは、相手の速攻のパス出しを遅らせる。記録に残らない細かい部分で、チームに足りないものを提供してくれる。こういう選手がいてくれると、非常に助かる。
期待したいプレーは、セットOFでの黒子になる動き。大きい6:0DFとやり合うだけでなく、スペースにサッと入ってきて、フィニッシュに持ち込めるか。世界で通用する得点力があった小さなポスト・横嶋かおる(元北國銀行)のような、いつの間にかフリーになる動きに憧れ、腕を磨いてきた。横嶋(か)にはない「がめる(勝ちの位置を取る)」プレーもできる。変幻自在なポストプレーが、今年も熊本で見られるか。
久保弘毅
この選手が凄い! その13
吉田起子(オムロン)
【驚異のロングシューター】
ロングシュートに限定すれば、日本リーグの女子ではナンバーワン。気持ちよく腕を振った時のシュートは、恐ろしいほどの速さでゴールに突き刺さる。高く跳べて、腕が長くてよくしなり、1試合打ち続けられる肩のスタミナがある。まさにエースになるべくして生まれてきた選手。いい時の吉田は間違いなくワールドクラスのロングシューター。日本の女子には数少ない「打ち込める」ポテンシャルを持っている。
しかし好不調の波が激しく、ボールをもらってからのプレーが多い日は、まったくもって「らしさ」を発揮できないままに終わってしまう。黄慶泳総監督は「僕と吉田との根比べです」と言って、吉田をエースに育てるべく、我慢強く起用してきた。その甲斐あって得点王のタイトルを獲った年もあったが、歴代のオムロンのエースと比べると、信頼度はイマイチだった。
【一芸枠でぜひ代表に!】
しかし、最近は「いい吉田」が増えてきたと評判になっている。対戦相手からも「吉田が調子良すぎて、止められなかった」といったコメントが出てくるようになった。以前は「吉田なら守れる」イメージだったのに、「手がつけられない」日が増えてきた。黄慶泳総監督も「個人の意見だけど」と前置きしながら「吉田を代表に呼んでほしい」と言うようになった。
現在の日本代表女子(おりひめジャパン)に足りないのはロングヒッター。7人攻撃で間を割って、数的優位を活かせる選手は揃っていても、ロングの怖さがない。熊本での世界選手権や来年の東京五輪を見据えて得点力アップを考えた場合に、世界で通用する打ち屋がほしい。その足りないピースに吉田がはまるかもしれない。
シュートを打つ以外のことは、はっきり言って期待できない。でもOF限定で「5分間で2点取ってこい」が可能なタイプ。相手がべた引きで守ってきた時に、ベンチからひょいと出てきて、ロングを連発で決めてくれそうなのは、今の日本の女子では吉田か左腕の中山佳穂(大阪体育大)ぐらいだろう。
【めっちゃいいヤツ】
代表合宿にも何度か呼ばれてはいるが、大事な大会ではメンバー入りしていない。それでも仲間のことを思って応援する。2015年のリオデジャネイロ五輪予選ではコールリーダーになり、応援団と現場との調整役を買って出た。昨年12月の熊本アジア選手権でも、先頭に立って応援していた。おりひめジャパンの応援団長も「ゴー(吉田のコートネーム)は本当に頼りになる」と、吉田の人間性を高く評価している。
普段から明るく、愉快なキャラクター。他チームの後輩たちから「笑いの神」と言われるくらい、人柄がいい。でも、できることなら、今年の世界選手権ではベンチに入ってほしい。徹底マークされても打ち抜ける強さをプレーオフで証明できれば、代表からもう一度声がかかるはず。世界の舞台でも、1本のシュートで流れを変えられる選手だ。
久保弘毅
この選手が凄い! その12
千々波英明(大同特殊鋼)
【究極のトップDF】
姜在源監督(現韓国女子代表監督)の時代に確立された大同の5:1DF。リーグ最高の「守り勝つ」フォーマットが今も成立しているのは、トップDFに千々波がいるから。長いリーチと豊富な運動量で、相手のパス回しのリズムを崩し、攻めの方向を限定する。大同と対戦する相手は誰もが「千々波さんのDF網をどうかいくぐるか」に頭を悩ませる。そして最終的には千々波1人にやられてしまう。
姜在源監督が就任した当初のトップDFは富田恭介だった。しかし富田が移籍してからしばらくはトップDFの後任が見つからず、とっかえひっかえで試していた時期があった。そこに千々波がぴったりフィットした。日体大時代からDF専門で鍛えられ、トップDFとフルバックの両方をこなせる戦術眼があり、なによりも富田に負けないだけの長いリーチと運動量があった。そこから約10年。トップDFのスペシャリストとしての地位を確立し、今シーズン限りでの引退を表明した。
【流れを読む力】
日本代表にはあまり縁がなかったが、日本屈指のDFマスターと言っていい。「姜在源さんの的確な指導と、両45度にいた白元喆さん、地引貴志さん(現コーチ)や岸川英誉(現監督)との密度の濃い会話があって、今の自分があります」とのこと。両45度の強い1対1に支えられ、トップで自由に動き回り、パスコースに入るのが、理想の形だという。
トップDFで躍動するだけでなく、DFでのリーダーシップが素晴らしい。ここ1本を守りたい場面では率先して声をかけて、チームを引き締める。千々波が後ろを振り向きながら手を叩き、チームの士気を高めている時は、試合の流れを左右する場面。短いひとことでチームの意思統一を図り、勝負どころの1本を守り勝つ。勝負の節目を誰よりも理解していて、流れを持ってくる術を知っている。ゲームリーディングも一流の選手だった。
【直接ゴールが隠れた得意技】
7人攻撃のルール改正以前から、直接ゴールを狙うのが得意。数年前の日本選手権では、琉球コラソンが後半残り10秒からGKの攻撃参加で同点に追いついたが、終了間際のスローオフから千々波が空っぽのゴールに投げ込み、決勝点を挙げている。
ルール改正後も、相手の7人攻撃のミスを誘って、直接ゴールを決める場面が何度かあった。慌てて枠を外しがちな状況でも、落ち着いてゴールに投げ込むコントロールが頼もしい。イージーな得点を確実にものにするのが大同のよき伝統であり、短期決戦に強い理由のひとつでもある。千々波の後継者と目される吉田雄貴にも、こういった勝負どころの嗅覚を受け継いでもらえたら。
久保弘毅
ドイツより meine Lieblingssachen