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この選手が凄い! その9 河嶋英里(三重バイオレットアイリス)

河嶋英里
河嶋英里

河嶋英里(三重バイオレットアイリス)

【サイドからの切りが上手】
 サイドから切ってダブルポストになる「きっかけ」の動きがある。多くの選手は、ただ何となく目的地へ向かっている感じなのだが、河嶋は違う。「色んなところでスクリーンになれるよう意識しています」と言うように、行く先々で連鎖を起こしている。
まず動き出しのタイミングがいい。パスをもらう選手と瞬時に2対2になりながら、DFの背後を嫌らしい距離感で走り抜ける。目の前のボールを持った選手と、裏を走る河嶋の両方が気になるから、DFは混乱する。放置しておいたら、最初の動き出しから即パスをもらってポストシュートに持ち込む。河嶋のプレーを見れば、サイド切りはスクリーンであり、広義でのクロスになるんだなと実感できる。

【攻守のアクセントになる】
 他にも試合を見ていれば、河嶋が地味に効いている場面がそこかしこにある。たとえばDFから速攻に転じる場面で、司令塔の加藤夕貴が捕まった。そんな時に河嶋がスッと真ん中に走ってボールをつなぎ、速攻を展開する。バイオレットのゴールシーン集でも、速攻のフィニッシュの前段階で、河嶋がさりげなく絡んでいることが多い。
 守備面では5:1DFのトップになって、相手の攻撃のリズムを崩すのも得意。流れを変えたい時の重要なオプションのひとつでもある。最近は高い運動能力で華やかに動き回る細江みづきもトップDFで活躍しているが、河嶋の方がより地味にツボを押さえている。
サイズ、シュート力、スピードといった一芸で考えると、まずスタメンの7人には選ばれないタイプ。でも試合の局面で「ここで河嶋がいてくれたら」と思わせるような「うま味」がある。ボールゲームの4局面をスムーズに回すには、河嶋のような「無形の力」を持った選手が欠かせない。

【代表に選ばれないのは?】
 巧くてクレバーな選手だけど、なかなか日本代表には選ばれない。いつも候補止まりで、悔しい思いをしている。このあたりは左サイドに求められる役割が、日本代表と三重とで違うからだと思われる。
 日本代表のウルリック・キルケリー監督は、センターの横嶋彩(北國銀行)を6:0DFの1枚目に入れて、速攻での得点を増やしたいと考えている。横嶋のサイズを補完するために、左サイドにはまず2枚目を守れるスケールが求められる。次に日本代表はセットOFで7人攻撃を多用するので、両サイドは細かい動きよりもフィニッシャーに徹することが求められる。
 シュート力とサイズだけで評価されると、河嶋は「物足りない」扱いになってしまう。しかし櫛田亮介監督率いる三重では、攻撃の起点であり、速攻のつなぎ役であり、DFのアクセントである。そうなると河嶋のクレバーさが活きてくる。代表と三重とどっちがいいとかではなく、そこは監督のハンドボール観の違い。また昔よりも女子のレベルが上がり、日本代表のメンバー選考に選択の余地が出てきたとも言える。河嶋は求められる場所で、細かい仕事を丁寧にすればいい。ハンドボール好きには「河嶋のプレーが好き」と言う人が多い。

河嶋英里

おりひめジャパンの布陣

おりひめジャパンの布陣

 30日から熊本で始まった女子アジア選手権へ向けて、日本協会のFaceBookにポジションごとの顔写真が掲載されました。なかなかよくできているので、こちらを御覧ください。
https://www.facebook.com/406719829403678/photos/a.438999459509048/1941184769290502/?type=3&theater

 このメンバー表を元に、各ポジションを見ていきましょう。

LW:今大会で最も大事になってくるポジションです。世界選手権で活躍した松村杏里(ソニー)がいない分を、どうカバーするか。7人攻撃のフィニッシュを確実に決めて、なおかつ6:0DFで左の2枚目が守れる選手がいないと、攻守のバランスが崩れてしまいます。
2枚目を守れる守備力ということでは、ヒザのケガから戻ってきた田邉夕貴(北國銀行)が第一候補。ウルリック体制初期のメンバーでもあり、語学力もあるのが強みです。課題だった「勝負どころでの1本」を決めてくれれば、チームに勢いがつきます。
田邉にない勝負強さを持っているのが勝連智恵(オムロン)。2枚目を守れるサイズはありませんが、大事なところで1本決めてくれるしぶとさがあります。左側がベンチに近い時は、2枚目に守備要員を入れて、勝連のクラッチシュートに期待してもいいでしょう。前回のアジア選手権の準決勝・中国戦でも、終盤に同点シュートを決めています。
田邉、勝連以外にも、攻守のバランスを整える意味では、センターの大山真奈(北國銀行)が左サイドに回って、2枚目を守るという選択肢もあります。

勝連
勝連

昨年のアジア選手権準決勝(中国戦)での、勝連の同点シュート

LB:エースポジションはキャプテン原希美(三重)の体調次第。試合の入りを落ち着かせるためにも、スタートは原になる可能性が高いと思われます。ヒザの回復がやや遅れていましたが、以前よりも打点の高いミドルが打ち込めるようになってきました。エースポジションでアウトスペースを割って、守っても3枚目で積極的に前に仕掛けてと、攻守にチームを背負えるタフさが原の持ち味です。
 攻撃面の上積みという意味では、大学生の渡部真綾(東海大)に期待したいところ。チーム全体にある程度守れるメドが立ってきたので、遠くから打ち込める若手を融合させていくのが、次への課題になります。原で攻守のバランスを整えつつ、点の欲しい場面で渡部を効果的に使うのが理想の形。ロングだけでなく、強靭な体を活かしたカットインでも、相手にダメージを与えてくれる選手です。
 塩田沙代(北國銀行)はエースというよりは、2枚目、3枚目の両方を守れる有能なバックアップ。ここ1~2年でおどおどした感じがなくなり、2次速攻でも迷いなく打ち込める強さが出てきました。

原

キャプテンの原は攻守に体を張って、チームを引っ張る

CB:メインはもちろん横嶋彩(北國銀行)。国内だと打ちながらリズムを取る司令塔ですが、国際大会では我慢強くボールを回して、最後の最後に間をこじ開けます。国内向けと海外仕様のプレースタイルを使い分けられるようになって、本物のセンターに近づいてきました。DFでは左の1枚目に入り、速攻での展開力やフィニッシュで、チームの得点を伸ばしてくれるでしょう。
 2番手にはベテランの石立真悠子(JJ・GANG)がいたのですが、アジア大会でヒザを負傷し、今回は欠場。石立のような「セットOFで流れを変える」役割は、大山真奈(北國銀行)に頼るしかありません。横嶋よりもゲームメイカーらしい選手だし、2枚目を守れる力もあります。今大会は大山が左サイドとセンターの両方で、すべての穴を埋めるくらいの活躍をしてもらわないと困ります。それだけ重要な「8番目の選手」の位置づけです。
 初選出の石井優花(オムロン)は攻撃力のある司令塔。大学時代の奔放な得点力が発揮できれば、代表でも戦力になるはずです。

横嶋彩
横嶋彩

横嶋は世界での戦い方を覚えて、いいセンターになった

RB:左利きの角南唯(ニュークビン/デンマーク)と右利きの多田仁美(三重)を使い分けるポジション。メインの角南唯は、ワイドな位置取りからゴールに向かって一直線に間を割って得点します。多田はちょっとイン寄りの位置取りから、強引に間を割ります。角南唯の正しい位置取りに相手が慣れたところで多田を投入すると、相手がたまに混乱するのがハンドボールの面白いところ。昨年の世界選手権メインラウンド1回戦(オランダ戦)で延長戦に持ち込めたのは、途中出場した多田の得点力のおかげでした。前日まで全然当たっていなかったのに、大事な場面で器用したウルリック・キルケリー監督も凄かったし、期待に応えた多田も見事でした。
 角南唯の正しい位置取りと無理のないカットインを味わいつつ、どのタイミングで多田が理屈を超越したゴリゴリカットインを炸裂させるかに注目してください。

角南唯
角南唯

角南唯の位置取りは美しい

RW:日本のストロングポイントです。池原綾香(ニュークビン/デンマーク)が高確率で決めてくれるから、日本の7人攻撃が機能します。たとえシュートを外したとしても、堂々とした彼女の振る舞いに、誰もが「次は必ず決めてくれる」と信じられます。角南唯からのラストパスだけでなく、2人のスカイプレーなど、左利き2人のコンビネーションは日本の貴重な得点源です。
 今シーズンからドイツに渡った藤田明日香(ドルトムント/ドイツ)も、本場で揉まれた成果を見せてくれるはず。速攻のスピード、シュートフォームの美しさだけでなく、ここ一番で決め切る強さが出てくれば、このポジションは盤石です。
 秋山なつみ(北國銀行)は右バックと右サイド両方のバックアップ。技術はありますが、場馴れするのに時間がかかるタイプなので、早い段階で経験させておいた方がいいかもしれません。

池原綾香
池原綾香

池原は本当にたくましくなった

PV:信頼できるメンツが揃っています。副将の永田しおり(オムロン)は攻守に体を張り、角南果帆(ソニー)は色んな選手と2対2ができます。永田美香(北國銀行)は今年に入って強さが増してきました。堀川真奈(広島)はサイズの割には脚力があります。
 永田しおりは2011年からずっと日本代表に定着しているDFリーダー。永田しおりと原が真ん中にいると、どんなDFシステムでも安心です。大きい相手にもひるまずコンタクトする分、退場のリスクがつきまといますが、そこで永田美香が成長した姿を見せてくれたら、日本の未来につながります。
角南果帆はクレバーな選手で、DFでは2枚目に入って上手に駆け引きします。特にオープンDFになった時の角南姉妹の運動量は要注目です。攻撃でも、くさびになる永田しおりと、動いて合わせる角南果帆の使い分けが見どころのひとつ。2人が揃ってライン際で仕事をするから、おりひめジャパンの7人攻撃は必ずプラス1を作れます。

永田しおり
永田しおり

永田しおりは守りの要。当たりの強さと危機管理能力はチーム随一

GK:ノルウェー出身の亀谷さくら(ニュークビン/デンマーク)は、女子日本代表で歴代最高クラスの守護神。当たりまくる日の迫力は間違いなくワールドクラスです。ただし何試合かに1回は「全然当たらない日」が出てくるので、そのエアポケットの時間帯をどうフォローしていくかが課題です。
 やっぱり信頼できるのが41歳の飛田季実子(ソニー)。パッと使われても、すぐに仕事をして、チームを落ち着かせます。技術、人柄ともに「おりひめジャパン最後の砦」と言っていい人物です。仮にベンチから外れたとしても、素晴らしい人間性で若手を支えてくれます。
 日本の将来のために育成中なのが板野陽(広島)。ぐにゃぐにゃと長い手足でよく止めます。柔らかいから予測不能な捕り方をする反面、スローイングでは長い手足を上手に使いこなせないところがあります。それでも心身共に強くなってきているので、できるだけ多くの経験を積んでほしいGKです。

亀谷さくら
亀谷さくら

韓国、中国、カザフスタンに勝つには、亀谷さくらの爆発力が欠かせない

スタッフ:ウルリック・キルケリー監督は、いつの間にか選手たちをいい方向に導く、不思議な能力を持っています。この2年間で、選手全員の語学力が上がったのは、キルケリー監督の隠れた功績と言っていいでしょう。戦術面の細かいニュアンスを詰めるのが、櫛田亮介コーチ(三重監督)の仕事。ドイツでのプレー経験があるので、ヨーロッパのハンドボール観を汲み取り、意訳できる人物です。今回からベンチに入るアントニ・パレツキGKコーチの手腕にも注目です。

久保弘毅

おりひめジャパン代表合宿

おりひめジャパン代表合宿

 11月15日に東京のナショナルトレーニングセンターで、ハンドボール女子日本代表(おりひめジャパン)の公開練習と記者会見が行われました。30日から始まる熊本でのアジア選手権を前に、くまもんが応援に駆けつけるなど、注目度の高い公開練習になりました。

おりひめジャパン
おりひめジャパン

 練習終わりのストレッチに乱入するくまもん。選手1人ひとりとハイタッチをして、コミュニケーションを取っていました。

くまモン
くまモン

 今回のアジア選手権は、1年後の熊本世界選手権のプレ大会でもあります。世界選手権のポスターも完成しました。なかなかオシャレで、気の利いたフレーズが入っています。左のポスターには「誰がゴリひめじゃい?」の文字が。ちなみに二の腕のモデルは、GGS(ゴリゴリシスターズ)のリーダー・多田仁美(三重)という奇跡の一致。GGSの「おりひめジャパンをゴリひめジャパンにしたい」との野望が、一歩前進しました。「誰がゴリひめじゃい?」「私だよ!」

くまモン
くまモン

 「お手てでつなぐ希望。」の方は、モデルが横嶋彩(北國銀行)。証拠写真はこちら。

おりひめジャパン
おりひめジャパン

 記者会見では、ウルリック・キルケリー監督が「この1年でいい準備ができた。どこが相手でも勝って、アジアのチャンピオンになりたい」と、アジア選手権への抱負を語りました。就任当初の「我々には経験が必要だ」と繰り返していた頃とは、自信の程が違います。オーソドックスな6:0DFに、栗山雅倫前監督から受け継いだオープンDF、さらにはもう一種類の計3つのDFシステムが、おりひめジャパンのストロングポイントです。

おりひめジャパン
おりひめジャパン

 キャプテンの原希美(三重)のスピーチ。彼女のしゃべりには、いつも感心させられます。入りの「こんにちは」から柔らかなトーンで、自分の思いを伝えてくれます。口先だけの「感謝の気持ち」ではなく、自分の言葉で話しかけてくるから、彼女の言う「感謝の気持ち」は、ストンと腹に落ちるのです。

おりひめジャパン
おりひめジャパン

 ウルリックがもう1人増えたのか!? いいえ、今回からGKコーチのアントニ・パレツキコーチがベンチ入りします。昨年の世界選手権では、デンマーク代表のコーチとして、キルケリー監督が率いた日本代表と対戦しています。キルケリー監督とはデンマークリーグで共にプレーしていた旧知の仲。デンマーク男子の名GK二コラス・ランディンを指導したこともある、腕利きのGKコーチです。ウルリックがしれっとビッグネームをスカウトしてきました。

おりひめジャパン
おりひめジャパン

 パレツキコーチの愛称は「アンテック」。GKの板野陽(広島)によると「練習のバリエーションが豊富で、今までメニューがかぶったことがないくらい。ただ動くだけでなく、頭を使ったり、手と足を別々に動かす練習が多いので、いい刺激になっています」とのこと。教える内容はごく基本的なことが中心。「いい位置取りをして、いいバランスを保って、そこから体ごと捕りに行け。GKはスペシャルなポジションだから、技術、体力、ハンドボールの理解と、すべてにおいてチームのスペシャルであってほしい」と、パレツキコーチは語っていました。

おりひめジャパン
おりひめジャパン

 ウルリックとアンテックに櫛田亮介コーチ(三重)の3人が揃うと、輝きが違いますね。天の川のようなきらめきで、おりひめジャパンを勝利に導いてくれることでしょう。

おりひめジャパン
おりひめジャパン

女子のアジア選手権は11月30日から熊本で開催されます。予選ラウンド最終日(12月5日)のカザフスタン戦に勝って、A組1位で決勝トーナメントへ進出するのは最低条件。アジア大会で1点差で敗れた中国、アジアNO.1の韓国に勝って、目指すはアジアの頂点です。来年の世界選手権への出場権はすでに確定していますが、開催国のプライドを結果で示してほしいところです。

 第17回女子アジア選手権の公式HPはこちら。
https://japanhandball2019.com/asian-championship-2018/

久保弘毅

この選手が凄い! その7 河田知美(北國銀行)

この選手が凄い! その7

河田知美
河田知美

河田知美(北國銀行)
【小さくても点が取れる】
 小柄な点取り屋として、学生時代から評判だった。北國銀行に入ってからも本職の左バックだけでなく、左サイドでも得点を重ね、中心選手になった。カットインができて、ロングも打てて、2対2の理屈がわかっているから横にずらしたり、ポストを見ながらプレーできる。攻撃に関しては非の打ちどころがない。
アンダーサイズな点取り屋は、上のカテゴリーでセンターに回されがちだが、荷川取義浩監督にエースで育ててもらえたのは、河田にとって幸運だった。荷川取監督は「河田は技を持っている」と言い、河田を効果的に起用している。DFでのサイズ不足を補完してくれる大型サイドの田邉夕貴が隣にいたこともよかった。かつての横嶋かおるなど、荷川取監督は、小柄でもハンドボールを分かっている選手を抜擢するのが上手い。

【サイズ不足を補う工夫】
 身長160cm(公称)だが、9mの外からロングシュートを決め切れる。得意技は落ち際で放つロング。小さいから最高到達点で打とうとするのではなく、そこから落ちてきたタイミングでコースに打ち分ける。DFも落ちてきているタイミングだから、シュートブロックに引っかからない。どういうタイミングでジャンプして、どのようにして滞空時間を保っているのかはわからないが、「1人時間差攻撃」のようなズレを生み出す。
 また7mスローを担当する際には、7mのラインより少し下がって、シュートコースを確保する。「私みたいな小さい人間は、国内からそういった工夫をしないと生き残れません」とのこと。その工夫は国際大会でも役に立っている。河田が7mスローを打つ時は、立ち位置に注目を。

【素敵な僧帽筋】
 小さくても投球動作がしっかりしている河田は、シュートフォームが美しい。両ヒジが少し背中側に入った、羽ばたくようなテークバックから、強いシュートを打ち込む。野球の投手で言えば東明大貴(オリックス)のような、質のいい真っすぐが投げられるフォーム。肩甲骨周辺の柔らかさはリーグ屈指。柔らかさだけなら山野由美子(ソニーセミコンダクタマニュファクチャリング)もいるが、柔らかさと強さの両方となると、河田が一番だろう。
 強さの源は、しっかりと発達した僧帽筋。小顔だから余計に、首から肩にかけての筋肉が目立つ。日本のフィジカルに優れた女子選手で結成しているGGS(ゴリゴリしスターズ)の一員。当初は「筋肉不足」と入会を見送られていたが、素晴らしい僧帽筋が認められ、晴れてメンバー入りを果たした。

久保弘毅

この選手が凄い! その8 髙宮咲(HC名古屋)

この選手が凄い! その8

髙宮咲
髙宮咲

髙宮咲(HC名古屋)
【天性のリーダーシップ】
 HC名古屋はここ2年ほどで強くなった。若くて戦術眼に優れた新井翔太ヘッドコーチがチームを立て直し、いい新人が入るようになった。若くて勢いのあるチームをまとめているのが、4年目の髙宮。1年目からリーダーシップを発揮し、髙宮を慕ってセンターの笠原有紗ら好素材が名古屋に集まり出した。
 以前の名古屋は、まじめで人柄のいい選手が集まっていたが、リーダータイプの人間がいなかった。そこに髙宮が入り、また髙宮の同期にDFの要の水谷百香がいたことで、チームの柱ができた。チームが強くなる過程では、こういう髙宮のような求心力を持った選手が必要不可欠。かつて弱かった三重バイオレットアイリスも、漆畑美沙というリーダーがいたことで、力のある後輩が集まり、櫛田亮介監督体制で花開いた。HC名古屋も髙宮を中心にまとまれば、初のプレーオフへの道が開けるだろう。

【2ポジションで役に立つ】
 右サイドが本職ではあるが、新井ヘッドが就任してからは右バックでの起用が増えている。インに回り込んでのミドルに、器用なパスさばきなど、左利きの利点を生かしてセットOFをスムーズにしている。
 現役時代センターだった新井ヘッドは、ゲームメイカーにこだわりを持っている。チーム内には絶対的な司令塔・笠原がいるが、新井ヘッドは「最もセンターらしい性格をしているのは髙宮」と言い、右バックに置くことで髙宮の冷静、視野の広さを引き出している。新井ヘッドはまた「デシジョンメイカー(意思決定者)は必ずしもセンターである必要はない」とも言っている。突破力がありながら時に熱くなりがちなセンターの笠原を、先輩の髙宮がフォローし、判断の手助けをするのが理想の形。今シーズンは笠原も突発的なパスミスがかなり減り、司令塔として1つレベルが上がってきた。その裏には、冷静にチーム全体を見られる髙宮の存在があると思われる。
 
【HC名古屋に久々に登場した代表選手】
 リーグでの活躍が認められ、髙宮は今年から日本代表に呼ばれるようになった。HC名古屋から代表選手が出たのは久しぶりのこと。記憶に残っている範囲では、2007年前後に佐藤由紀恵が代表合宿に参加して以来か。
 出身地の群馬での代表戦にこそ出場できなかったが、その後のトライアルゲームに出場し、代表活動で得た刺激をチームに還元している。ちなみに新井ヘッドも女子ジュニア(U-20)日本代表のコーチに呼ばれている。HC名古屋と世界との接点が増えてきたのはいい傾向。

【追記】残念ながら10月下旬の試合でヒザを痛めて、長期離脱の見通し。初のプレーオフ進出を目指していたHC名古屋にとっては大きな痛手だが、髙宮はコート外からも積極的に声をかけている。視野が広くて、フォアザチームの意識が徹底している選手。たとえコートに立てなくても、チームにいい影響を及ぼしてくれるに違いない。

髙宮咲選手は今シーズンのmelis契約選手です。

久保弘毅