「ハンドボール日本代表」カテゴリーアーカイブ

ハンドボール日本代表紹介 #21 池原綾香(デンマーク・ニュークビン)

池原綾香
池原綾香

#21 池原綾香(デンマーク・ニュークビン)

・ワールドクラスのウイング
 2年前の世界選手権では大活躍。驚異のシュート率8割越えを記録した。日本の長年の課題だったウイング(サイド)の決定率で、ここまでの数字を残した選手は過去にいない。国内の日本リーグでも7割以上決める女子選手がほとんどいないので、「神がかり的な記録」と言っていい。池原の高精度のフィニッシュがあって、おりひめジャパンはモンテネグロに勝利し、決勝トーナメントでもオランダと延長戦にまで持ち込めた。

 サイドシュートを決め切る技術も向上したが、シュートを外した後の立ち居振る舞いが良くなった。三重バイオレットアイリス時代は、シュートを外して苦しそうな表情で謝る池原の姿がよく見られた。しかしデンマークに移籍してからは、シュートを外しても平然と戻ってくるようになった。外して「ごめんなさい」ではなく、「次は決めてやる」といった姿勢が、チームに安心と落ち着きをもたらす。男子では土井杏利。女子では池原綾香。この2人が「世界で戦う態度」を示し、日本は強くなった。

 ヒザのケガのため、今回の世界選手権は難しいと思われたが、最終選考で代表に復帰した。やはり右サイドに池原の名前があるだけで、対戦国も警戒するだろう。若い#20秋山なつみ、#7藤田明日香だけでなく、もう1枚池原がいてくれたらチームが落ち着く。コンディションを見ながらの起用になるが、池原という札を持っておくことは、日本にとって大きなプラスになる。

 サイドシュートのセオリー通り「(GKの)遠めの腰横」を狙って、確実に打ち抜ける精度が持ち味。世界のサイドシューターと日本人の差は、この「遠めの精度」に尽きる。GKが手出しできない「遠めの腰横」に決める池原の姿が、今年も熊本で見られるか。

久保弘毅

ハンドボール日本代表紹介 #20 秋山なつみ(北國銀行)

秋山なつみ

#20 秋山なつみ(北國銀行)

・おりひめの忠犬ハチ公
 コートネームは「ハチ」。普通は大学、社会人と進むにつれて、コートネームも変わっていくのだが、秋山の場合は「ハチっぽいから」との理由で、洛北高時代から今まで変わらず「ハチ」と呼ばれている。色白で親しみやすいルックス。鍛え抜かれたハムストリングス。真面目に取り組む姿勢。チームへの忠誠心に人懐っこさなど、忠犬ハチ公を想起させる要素は多い。速攻では誰よりも早く飛び出し、ゴールまでボールを運んでくれる。

 性格はいたって真面目。環境になじむまで少し時間がかかるが、慣れてくるにしたがって良さが出てくる。右サイド(RW)と右バック(RB)の両方がこなせて、シュート技術も確か。特に右サイドでは左利きの利点を生かして、遠めのシュートでGKを動かす。昨年のアジア選手権では、#21池原綾香、#7藤田明日香の不調をカバーし、期待以上の活躍を見せてくれた。いい攻撃をすると必ず右サイドが余るので、右側の3人の精度は大事。

 世界選手権は初舞台だが、海外の大型GKへの免疫はついているはず。落ち着いて自分の持っているものを出せば、大会にもスムーズに入っていけるだろう。そういう意味では初戦のアルゼンチン戦が重要になってくる。やればできる子。いつもの通りにやれば、世界でも十分に戦える。慣れてくれば、持ち前の人懐っこさも見られるだろう。自国開催のアドバンテージを最大限に生かして、いい意味で「いつもの秋山なつみ」でコートに立ってくれたら、結果は後からついてくる。北國
銀行で途中から試合に入る経験を積んできた
ので、先発でも途中出場でも力を発揮してく
れそう。最近はクロスアタックを積極的に仕
掛けるなど、守備への意識も高まっている。

 7月23日生まれで、名前は「なつみ」。非常に覚えやすい。

久保弘毅

ハンドボール日本代表紹介 #16 宮川裕美(オムロン)

宮川裕美
宮川裕美

#16 宮川裕美(オムロン)

・木綿のハンカチーフ
東北で生まれ育った、見るからに純朴なGK。人呼んで「木綿のハンカチーフ」。名づけ親は、J SPORTSで解説を務める銘苅淳(北陸電力)。太田裕美の名曲に出てきそうな、都会の色に染まらない雰囲気が、宮川の持ち味である。GKは「変わり者が多いポジション」と言われるが、おそらく「突き抜けていい人」タイプなのかもしれない。同じ系統には飛田季実子(ソニーセミコンダクタ マニュファクチャリング)、高森妙子(イズミメイプルレッズGKコーチ)、田口舞(ザ・テラスホテルズ)らがいる。

ゆっくりと時間をかけて、日本代表になった。オムロンはこういった「高卒の大器」を育てるのが上手い。6年間ぐらい下積みをしながら、藤間かおり(元オムロン、元日本代表)の我慢強いキーピングを見て学んだ。2017年の日本選手権決勝では、途中まで調子が上がらなかったが、終盤に好セーブ連発で勝負の節目を押さえた。当たらない日でも、大事なところだけかっさらっていくのは、オムロンの背番号1の仕事。勝田祥子GKコーチ、藤間がそうだったし、宮川もそういうGKになってきた。

レジェンドの飛田とGK最後の一枠を争い、世界選手権のメンバーに滑り込んだ。出番は限られるだろうが、出たからには何か爪痕を残してほしい。オムロンでは「宮川が顔面でセーブすると勝つ」ジンクスがある。どっしりと腰を据えて、早動きしないで、最後までボールを見ている証拠とも言える。顔や目のケガには充分気をつけながらも、ここ一番でボールを恐れぬキーピングを。宮川の勇気が、熊本を盛り上げる。

久保弘毅

ハンドボール日本代表紹介 #15 多田仁美(三重バイオレットアイリス)

多田仁美
多田仁美

#15 多田仁美(三重バイオレットアイリス)

・ゴリゴリシスターズ!
 丈夫な体を持ち、馬車馬のように間を突破する。鍛え抜かれた太腿はパワーの証。ゴリゴリと間を割って、相手を弾き飛ばす。身体作りの意識の高い女子選手のユニット「ゴリゴリシスターズ」の長女は、自身のプレーと取り組みで、フィジカルの重要性を訴えかける。

 バックプレーヤー3ポジションどこでもプレーできるが、一番味が出るのは右バック(RB)に入った時。左利きの#4角南唯は教科書どおり、サイドラインに近いところに位置を取る。ワイドポジションでDFを広げ、ゴールに向かって一直線に間を割れるからだ。しかし右利きの多田は、センター(CB)にかなり近い位置を取る。カットインがゴールから遠ざかる形になるが、これはミケル・ハンセン(男子デンマーク代表)が右バックに入った時と同じ位置取り。利き手側のスペースが使えて、次の選択肢が増える。多田が「お兄ちゃん」と慕う、ゴリゴリボーイズの門山哲也(トヨタ車体)も、プレーオフで同じ位置取りをしていた。ハンセンや門山は理論的に位置取りを研究したが、多田は「野性の勘」で世界最先端のポジショニングを先取りしていた。

 肉弾戦を好む割にはDFが得意ではなく、右利きの右バックだと使いどころが限られてしまう。それでも短時間で流れを変えられるインパクトがある。印象的な活躍は、2年前の世界選手権決勝トーナメント1回戦のオランダ戦。予選リーグで絶不調だった多田を、ウルリック・キルケリー監督はオランダとの接戦の後半に投入した。すると多田の不思議な位置取りに惑わされたか、オランダのDFが混乱し、多田の2得点で延長戦となった。多田を起用したキルケリー監督の直感も凄かったし、結果を残した多田も見事だった。今回もインパクトプレーヤーとして、理屈を超越した活躍に期待。

久保弘毅

ハンドボール日本代表紹介 #18 田邉夕貴(北國銀行)

田邉夕貴
田邉夕貴

#18 田邉夕貴(北國銀行)

・語学堪能のトレーニングマニア
 ヒザのケガのリハビリ期間中に、トレーニングに目覚めた。体幹を鍛えるメニューやボールを使ったコーディネーショントレーニングなどをTwitterで発信。競技の垣根を超えた人気者になった。@Yuki24365950 もしくは #beeトレ で検索すれば、ハンドボールだけに限らず、他競技にも役立つメニューがたくさん出てくる。

 トレーニング以外にも語学ができるので、ウルリック・キルケリー監督が就任した2016年以降はパイプ役としても重宝されている。ハンガリーでのプレー経験があるから、英語の聞き取りはそれなりにできる。監督の英語での指示を噛み砕いて、周りに伝える。キルケリー監督体制で3年やってきて、選手全員の語学力が上がった。世界と戦ううえで、これは目に見えない大きな財産。キルケリー監督の用語集を作った藤田愛通訳の努力もあるが、田邉をはじめとする選手たちの意欲も素晴らしい。

 最大の武器は、2枚目を守れるDF力。大型サイド(LW)が左の2枚目を守ってくれるから、小柄なセンター(CB)を左の1枚目に置ける。速攻での展開力を重視するキルケリー監督の布陣では、田邉のような存在は欠かせない。田邉がいることで、攻守のバランスが整う。日本では点取り屋が過大評価されがちだが、こういう「攻守に穴のない存在」は、ハンドボールではとても大事。

 昨年のアジア選手権では、左サイドでの決定率が高かった。特に予選ラウンド最大のヤマと言われたカザフスタン戦では9/11の大活躍。GKの両手の間を打ち抜く「遠めの上」の精度が抜群に良かった。世界選手権でもこれに近い数字を残してくれたら、ヨーロッパの強豪相手にも勝てる。何度も言うが、おりひめジャパンの生命線は両サイドの決定率。ウイングの精度にかかっている。

久保弘毅