「世界女子ハンドボール選手権」カテゴリーアーカイブ

ハンドボール日本代表紹介 #18 田邉夕貴(北國銀行)

田邉夕貴
田邉夕貴

#18 田邉夕貴(北國銀行)

・語学堪能のトレーニングマニア
 ヒザのケガのリハビリ期間中に、トレーニングに目覚めた。体幹を鍛えるメニューやボールを使ったコーディネーショントレーニングなどをTwitterで発信。競技の垣根を超えた人気者になった。@Yuki24365950 もしくは #beeトレ で検索すれば、ハンドボールだけに限らず、他競技にも役立つメニューがたくさん出てくる。

 トレーニング以外にも語学ができるので、ウルリック・キルケリー監督が就任した2016年以降はパイプ役としても重宝されている。ハンガリーでのプレー経験があるから、英語の聞き取りはそれなりにできる。監督の英語での指示を噛み砕いて、周りに伝える。キルケリー監督体制で3年やってきて、選手全員の語学力が上がった。世界と戦ううえで、これは目に見えない大きな財産。キルケリー監督の用語集を作った藤田愛通訳の努力もあるが、田邉をはじめとする選手たちの意欲も素晴らしい。

 最大の武器は、2枚目を守れるDF力。大型サイド(LW)が左の2枚目を守ってくれるから、小柄なセンター(CB)を左の1枚目に置ける。速攻での展開力を重視するキルケリー監督の布陣では、田邉のような存在は欠かせない。田邉がいることで、攻守のバランスが整う。日本では点取り屋が過大評価されがちだが、こういう「攻守に穴のない存在」は、ハンドボールではとても大事。

 昨年のアジア選手権では、左サイドでの決定率が高かった。特に予選ラウンド最大のヤマと言われたカザフスタン戦では9/11の大活躍。GKの両手の間を打ち抜く「遠めの上」の精度が抜群に良かった。世界選手権でもこれに近い数字を残してくれたら、ヨーロッパの強豪相手にも勝てる。何度も言うが、おりひめジャパンの生命線は両サイドの決定率。ウイングの精度にかかっている。

久保弘毅

ハンドボール日本代表紹介 #13 勝連智恵(オムロン)

勝連智恵
勝連智恵

#13 勝連智恵(オムロン)

・とにかく勝負強い!
 数字で見ると、パッとしない。身長は160㎝に満たないし、シュート率は国内でもあまり高くない。「日本の標準的な左サイド(LW)」のスペックだが、数字に表れない勝負強さを持っている。ウルリック・キルケリー監督体制で最初のアジア選手権(2017年)では、準決勝の中国戦の後半28分に同点シュートを決めて、6点差を逆転する原動力になった。所属のオムロンでも、大事な場面で1本決めるだけでなく、予想もしないところでサイドからの回り込みを決めるなど、要所でいい働きを見せている。

宣真高からオムロンに入ってすぐの段階で、当時の黄慶泳ヘッドコーチ(元日本代表監督)が「オリ(勝連のコートネーム)は何かを持っている」と、勝連を抜擢した。オムロンと女子日本代表を強くした黄監督の確かな目があったから、現在の勝連がある。雄弁なタイプではないが、戦術理解や試合の流れを読む力は一級品。1年前のアジア選手権では、途中出場から逆スピンシュートを決めて、熊本のファンを沸かせた。小さな体でも、度胸の良さはワールドクラス。

黒髪で小柄で童顔。外国人が持っている「日本の女の子」のイメージと合致するせいか、国際映像だとベンチで喜ぶ勝連の姿がよく映る。年季を積んで、ベテランの域に達しようとしているが、ベンチでもコートでも全力を尽くす姿はいつまでも若々しい。おそらく今回の世界選手権でも「日本らしさの象徴」として、何度も映し出されるだろう。

見てほしいのはもちろん、角度のないところからの逆スピンシュート。ワンバウンドしたボールが急激に角度を変えて、大きなGKを翻弄する。途中出場の1/1で、チームを落ち着かせてくれる選手。今大会はセンター(CB)に守備力のある#25大山真奈が入るのも、小柄な勝連にとって「追い風」になるだろう。

久保弘毅

ハンドボール日本代表紹介 #12 板野陽(イズミメイプルレッズ)

板野陽
板野陽

#12 板野陽(イズミメイプルレッズ)

・おりひめが誇る軟体動物
 とにかく体が柔らかい。柔軟体操をしている板野の姿を一度見たら、間違いなく衝撃を受ける。長い手足を広げて、ペタンと床に体を着ける。GKは柔軟性が必要なポジションだが、ここまで柔らかい選手はそうはいない。試合の直前でも、ゴール付近で入念なストレッチをする板野の姿がよく見られる。自他共に認める「軟体動物」の凄みを、試合前からその目で確かめてほしい。

 驚異的な柔軟性をキーピングにどう生かすか。ここ1年ほどで答えが明確になってきた。以前は、長い手足がぐにゃぐにゃと伸びて、「なんだか美しくないけど、よく止める」GKだった。たとえは悪いが、生ダコをボールにぶつけるような捕り方だった。それがアントニオ・パレツキGKコーチの指導で、柔らかすぎた体に一本芯が通った。まず、小刻みに足を動かすトラッキングのキレが違ってきた。早く、細かく、鋭く動けるから、すぐに次の場所に移動できる。早めの位置取りでシューターを見る時間を作ったら、ダイナミックにボールに飛びつく。体の軸がしっかりしているので、長い手足がスパッと伸びる。下のボールへのスライディングは「こんなに瞬発力のある子だったっけ!」と思うくらい、この1年で見違えるほど良くなった。国内でも安定した阻止率を残し、信頼度が高まった。

 正GKは#30亀谷さくらで決まりだが、第2GKの板野の出番も多くなりそう。亀谷が不発の日にサッと出てきて、長い手足でシュートを止めてくれたら、チームが落ち着く。世界選手権の水準レベルである「阻止率33%」を期待してもいい段階に達していると思われる。来年の東京五輪やその先を見据えて、今回の世界選手権を「ワールドクラスのGKになるための第一歩」と位置づけてくれたら。

久保弘毅

ハンドボール日本代表紹介 #7 藤田明日香(ドイツ・ドルトムント)

藤田明日香
藤田明日香

#7 藤田明日香(ドイツ・ドルトムント)

・右サイドを駆け抜けるバンビ
 海外で腕を磨く左利き。走る姿に躍動感があり、ポニーテールが風になびく。バンビのような愛らしいルックスで、隠れた人気者。ドイツでのプロ経験でたくましさを増している。たとえばアパートの電球が切れた時に、チームのスタッフやエージェントに相談するより前に、自分で電球を買いに行って、取りつける。当たり前のことだけど、海外で言葉も通じない状況だとちょっと面倒なことを、自分でできるようになったという。こういう積み重ねが、人を強くしていく。

 選手としても、大型のGKに対する免疫を、この2年ほどでつけてきた。ただ、日本代表では結果を残せていない。1年前のアジア選手権では調子が上がらず、大会途中でベンチアウトになった。今年6月の日韓戦でも1/3と冴えなかった。右サイド(RW)は#20秋山なつみがいて、ケガから復帰した#21池原綾香もいるが、藤田も含めた3人のうち、誰か1人は当たっていないと苦しい。7人攻撃を含めて、右サイドが余る状況が多くなるので、最低でも2/3ぐらいの確率で決めてもらわないと、欧州勢を相手に勝機を見いだせない。ギリギリで復帰した池原は状態を見ての起用になるだろうから、大会序盤は藤田と秋山のシュート率がカギを握りそう。

 期待することは、とにかくサイドシュートを決めること。得意の速攻で波に乗れたら、セットOFでも落ち着いて決められるはず。以前はDFに難ありのイメージだったが、ドイツでもまれて強くなっていることを期待したい。できることの幅は広くはないが、右のサイドライン際を駆け抜ける姿は間違いなく絵になる。フィニッシャーの役割をまっとうして、日本代表に勢いをもたらしてほしい。

久保弘毅

ハンドボール日本代表紹介 #6 石井優花(オムロン)

#6 

石井優花
石井優花
(オムロン)

・度胸満点。国際大会に強い!
 センター(CB)のバックアップでメンバー入り。不動のゲームメイカーだった#9横嶋彩が負傷したため、代わりにメンバーに食い込んだ。1年前の熊本でのアジア選手権にも出場し、途中出場で強烈なインパクトを残している。クイックスタートを仕掛けて、相手のDFがまばらになった瞬間、間からミドルシュートを打ち込み、得点を挙げた。リスタートの笛が鳴ってからわずか数秒でのシュート。あの場面で打てること自体、肝が据わっているし、決め切るシュート力も素晴らしい。アジア選手権では「大会で最も成長したのは石井」と言われていた。

 所属のオムロンでは、絶対的な司令塔になるべく修行中。現役時代にポストの使い方が上手かった水野裕紀監督のもとで、得意の2対2を磨いている。カットインよりも、ポストをにらみながらのミドルシュートが得意。東京女子体育大時代は、積極的にミドルを放っていた。あの思い切りの良さがなかなか出ないで苦しんでいたが、国際大会だといい意味でのイケイケ感が出てくる。「隙あらば打つ」スタイルなので「海外向き」なのかもしれない。

 ゲームの組み立てよりも、短時間での「インパクトプレーヤー」としての役割に期待したい選手。粘り強いボール回しを覚えるのはこれから。今は「前があいたら打つ」ぐらいで充分かもしれない。攻撃が停滞した時に石井を入れて、速い展開から相手を崩して1点を奪う。そんな流れに持っていけたら。ゲームの起承転結を考えるのは#7大山真奈や#81石立真悠子に任せて、5分間に良さを凝縮させれば、いいアクセントになりそう。

久保弘毅