「ハンドボール日本代表」カテゴリーアーカイブ

ハンドボール日本代表紹介#4 角南唯(北國銀行)

角南唯
角南唯

・しなやかな姉
 角南姉妹の姉は、しなやかな左利き。正しい位置取りからDFを広げて、右バック(RB)から真っすぐゴールに切れ込む。少しの隙間でもするすると抜けて、フィニッシュまで持ち込める。「位置取りにはこだわっています」と言うように、サイドラインいっぱいに立つポジショニングが生命線。ストレートにゴールを狙えて、なおかつ右サイド(RW)へのパスも邪魔されない。左利きの右バックのお手本とも言うべき、「位置取りで世界に勝つ」選手だ。

 カットインの素晴らしさはワールドクラス。ただ、ステップシュートやミドルシュートは少々弱い。昨季は1年間デンマークでプレーしたが、9mから打ち切れない弱さもあり、出場時間を増やせなかった。日本代表ではそのあたりを#36中山佳穂と役割分担できれば、問題ないだろう。カットインが得意で、ポストが見えている角南(唯)。角度のあるロングシュートが打てる中山。この2人の左利きがそれぞれに良さを発揮すれば、日本の得点力は大幅にアップする。

 ソフトなイメージがある選手だが、DFでは想像以上にハードワークする。特にオープンDFになった時に、足を使って広いスペースをカバーする。相手のエースと対峙するポジションなので、角南(唯)の運動量は勝敗を分けるポイントのひとつになる。しつこく足でついていき、時には反対側まで守りにいくことも。

 期待したいのは、RW#21池原綾香とのコンビネーション。2年前の世界選手権は、角南(唯)のアシストがあって、池原のシュート決定率が8割を超えた。今回は池原のコンディション次第だが、一緒にコートに立てば、阿吽の呼吸で得点機を作り出す。池原から角南(唯)に戻すスカイプレーも見せ場のひとつ。

久保弘毅

ハンドボール日本代表紹介#3 角南果帆(ソニーセミコンダクタ マニュファクチャリング)

角南果帆
角南果帆

・賢い妹
 角南姉妹の妹は、ライン際でのクレバーな動きが信条。バックプレーヤーと2対2をしながら、裏で攻撃を組み立てる。味方にスペースを作るためにスクリーンをかけたり、対角からのポストパスをもらったり、理にかなった動きで得点に絡む。スクリーンをかけていたかと思いきや、パッと離れてDFを置き去りにして、ノーマークになるのも上手。

 日本代表のウルリック・キルケリーは7人攻撃を多用するが、7人攻撃が高確率で決まるのは、角南(果)と#28永田しおりの2人のポスト(PV)がしっかりしているから。重さで勝負する永田(し)がくさびになり、機動力で勝負する角南(果)が動き出し、局所の2対1を作り出す。いわゆるプラス1(数的優位)を作ることにかけては、国内随一のポストプレーヤーと言っていい。

 メンバーの配置の関係で、代表ではDFに出る機会があまり多くないが、守備力も素晴らしい。特にオープンDF(上と下を分ける3:3DFのような形)の時には、前でいい仕事をする。セットOFからの戻りでは、相手の速攻のパス出しを遅らせる。記録に残らない細かい部分で、チームに足りないものを提供してくれる。こういう選手がいてくれると、非常に助かる。

 期待したいプレーは、セットOFでの黒子になる動き。大きい6:0DFとやり合うだけでなく、スペースにサッと入ってきて、フィニッシュに持ち込めるか。世界で通用する得点力があった小さなポスト・横嶋かおる(元北國銀行)のような、いつの間にかフリーになる動きに憧れ、腕を磨いてきた。横嶋(か)にはない「がめる(勝ちの位置を取る)」プレーもできる。変幻自在なポストプレーが、今年も熊本で見られるか。

久保弘毅

ハンドボール日本代表紹介#2 永田美香(北國銀行)

永田美香(北國銀行)
永田美香(北國銀行)

#2 永田美香(北國銀行)

・世界に対抗できるサイズの持ち主
 身長が180㎝もあって、なおかつ速攻で走れる脚力がある。日本の女子にはなかなかいなかった、動ける大型選手。四天王寺高を卒業して北國銀行に入った時点で、荷川取義浩監督は「2020年の東京五輪に向けて育てたい」と、永田(美)を早くから抜擢している。
先行投資の甲斐あって、昨年あたりから目に見えて強さが増してきた。ライン際で相手を押し込み、ポストシュートで退場つきの得点を奪う。相手の動きを背中で感じ取るなど、コメントもレベルアップしている。北國銀行では押しも押されぬ主力に成長し、試合で慌てる後輩たちにさりげなく声をかけるなど、すべてにおいて視野が広くなった。

あとは日本代表でポスト(PV)の定位置をつかむだけ。#3角南果帆と#28永田しおりの2人が盤石とはいえ、そこに割って入るだけの実力はついてきた。角南(果)の賢さだけでは厳しい時、永田(し)に退場がかさんだ時、永田(美)の出番になる。日本が好調だと、相手もライン際でまずポストを潰しにかかる。そういう時に永田(美)のサイズとパワーで対抗できたら、後半の苦しい時間帯も乗り切れる。

期待したいプレーは、まずは速攻。チーム1の長身で、真ん中から飛び出し、速攻の先頭に立って走る姿は見ごたえがある。セットOFでは、北國の先輩#41河田知美との2対2。小さなテクニシャン・河田のシュートを手助けしながら、ポストパスをもらえるシーンが増えれば、日本の得点が伸びる。DFシステムの兼ね合いもあるが、6:0DFの中央で#24原希美、永田(し)の休憩時間を作ってくれるとありがたい。昨年のアジア選手権はケガで途中からベンチアウトになったので、ケガなく出続けることが第一。出場機会が増えるほどに、大きく成長しそう。

久保弘毅

おりひめジャパンの布陣

おりひめジャパンの布陣

 30日から熊本で始まった女子アジア選手権へ向けて、日本協会のFaceBookにポジションごとの顔写真が掲載されました。なかなかよくできているので、こちらを御覧ください。
https://www.facebook.com/406719829403678/photos/a.438999459509048/1941184769290502/?type=3&theater

 このメンバー表を元に、各ポジションを見ていきましょう。

LW:今大会で最も大事になってくるポジションです。世界選手権で活躍した松村杏里(ソニー)がいない分を、どうカバーするか。7人攻撃のフィニッシュを確実に決めて、なおかつ6:0DFで左の2枚目が守れる選手がいないと、攻守のバランスが崩れてしまいます。
2枚目を守れる守備力ということでは、ヒザのケガから戻ってきた田邉夕貴(北國銀行)が第一候補。ウルリック体制初期のメンバーでもあり、語学力もあるのが強みです。課題だった「勝負どころでの1本」を決めてくれれば、チームに勢いがつきます。
田邉にない勝負強さを持っているのが勝連智恵(オムロン)。2枚目を守れるサイズはありませんが、大事なところで1本決めてくれるしぶとさがあります。左側がベンチに近い時は、2枚目に守備要員を入れて、勝連のクラッチシュートに期待してもいいでしょう。前回のアジア選手権の準決勝・中国戦でも、終盤に同点シュートを決めています。
田邉、勝連以外にも、攻守のバランスを整える意味では、センターの大山真奈(北國銀行)が左サイドに回って、2枚目を守るという選択肢もあります。

勝連
勝連

昨年のアジア選手権準決勝(中国戦)での、勝連の同点シュート

LB:エースポジションはキャプテン原希美(三重)の体調次第。試合の入りを落ち着かせるためにも、スタートは原になる可能性が高いと思われます。ヒザの回復がやや遅れていましたが、以前よりも打点の高いミドルが打ち込めるようになってきました。エースポジションでアウトスペースを割って、守っても3枚目で積極的に前に仕掛けてと、攻守にチームを背負えるタフさが原の持ち味です。
 攻撃面の上積みという意味では、大学生の渡部真綾(東海大)に期待したいところ。チーム全体にある程度守れるメドが立ってきたので、遠くから打ち込める若手を融合させていくのが、次への課題になります。原で攻守のバランスを整えつつ、点の欲しい場面で渡部を効果的に使うのが理想の形。ロングだけでなく、強靭な体を活かしたカットインでも、相手にダメージを与えてくれる選手です。
 塩田沙代(北國銀行)はエースというよりは、2枚目、3枚目の両方を守れる有能なバックアップ。ここ1~2年でおどおどした感じがなくなり、2次速攻でも迷いなく打ち込める強さが出てきました。

原

キャプテンの原は攻守に体を張って、チームを引っ張る

CB:メインはもちろん横嶋彩(北國銀行)。国内だと打ちながらリズムを取る司令塔ですが、国際大会では我慢強くボールを回して、最後の最後に間をこじ開けます。国内向けと海外仕様のプレースタイルを使い分けられるようになって、本物のセンターに近づいてきました。DFでは左の1枚目に入り、速攻での展開力やフィニッシュで、チームの得点を伸ばしてくれるでしょう。
 2番手にはベテランの石立真悠子(JJ・GANG)がいたのですが、アジア大会でヒザを負傷し、今回は欠場。石立のような「セットOFで流れを変える」役割は、大山真奈(北國銀行)に頼るしかありません。横嶋よりもゲームメイカーらしい選手だし、2枚目を守れる力もあります。今大会は大山が左サイドとセンターの両方で、すべての穴を埋めるくらいの活躍をしてもらわないと困ります。それだけ重要な「8番目の選手」の位置づけです。
 初選出の石井優花(オムロン)は攻撃力のある司令塔。大学時代の奔放な得点力が発揮できれば、代表でも戦力になるはずです。

横嶋彩
横嶋彩

横嶋は世界での戦い方を覚えて、いいセンターになった

RB:左利きの角南唯(ニュークビン/デンマーク)と右利きの多田仁美(三重)を使い分けるポジション。メインの角南唯は、ワイドな位置取りからゴールに向かって一直線に間を割って得点します。多田はちょっとイン寄りの位置取りから、強引に間を割ります。角南唯の正しい位置取りに相手が慣れたところで多田を投入すると、相手がたまに混乱するのがハンドボールの面白いところ。昨年の世界選手権メインラウンド1回戦(オランダ戦)で延長戦に持ち込めたのは、途中出場した多田の得点力のおかげでした。前日まで全然当たっていなかったのに、大事な場面で器用したウルリック・キルケリー監督も凄かったし、期待に応えた多田も見事でした。
 角南唯の正しい位置取りと無理のないカットインを味わいつつ、どのタイミングで多田が理屈を超越したゴリゴリカットインを炸裂させるかに注目してください。

角南唯
角南唯

角南唯の位置取りは美しい

RW:日本のストロングポイントです。池原綾香(ニュークビン/デンマーク)が高確率で決めてくれるから、日本の7人攻撃が機能します。たとえシュートを外したとしても、堂々とした彼女の振る舞いに、誰もが「次は必ず決めてくれる」と信じられます。角南唯からのラストパスだけでなく、2人のスカイプレーなど、左利き2人のコンビネーションは日本の貴重な得点源です。
 今シーズンからドイツに渡った藤田明日香(ドルトムント/ドイツ)も、本場で揉まれた成果を見せてくれるはず。速攻のスピード、シュートフォームの美しさだけでなく、ここ一番で決め切る強さが出てくれば、このポジションは盤石です。
 秋山なつみ(北國銀行)は右バックと右サイド両方のバックアップ。技術はありますが、場馴れするのに時間がかかるタイプなので、早い段階で経験させておいた方がいいかもしれません。

池原綾香
池原綾香

池原は本当にたくましくなった

PV:信頼できるメンツが揃っています。副将の永田しおり(オムロン)は攻守に体を張り、角南果帆(ソニー)は色んな選手と2対2ができます。永田美香(北國銀行)は今年に入って強さが増してきました。堀川真奈(広島)はサイズの割には脚力があります。
 永田しおりは2011年からずっと日本代表に定着しているDFリーダー。永田しおりと原が真ん中にいると、どんなDFシステムでも安心です。大きい相手にもひるまずコンタクトする分、退場のリスクがつきまといますが、そこで永田美香が成長した姿を見せてくれたら、日本の未来につながります。
角南果帆はクレバーな選手で、DFでは2枚目に入って上手に駆け引きします。特にオープンDFになった時の角南姉妹の運動量は要注目です。攻撃でも、くさびになる永田しおりと、動いて合わせる角南果帆の使い分けが見どころのひとつ。2人が揃ってライン際で仕事をするから、おりひめジャパンの7人攻撃は必ずプラス1を作れます。

永田しおり
永田しおり

永田しおりは守りの要。当たりの強さと危機管理能力はチーム随一

GK:ノルウェー出身の亀谷さくら(ニュークビン/デンマーク)は、女子日本代表で歴代最高クラスの守護神。当たりまくる日の迫力は間違いなくワールドクラスです。ただし何試合かに1回は「全然当たらない日」が出てくるので、そのエアポケットの時間帯をどうフォローしていくかが課題です。
 やっぱり信頼できるのが41歳の飛田季実子(ソニー)。パッと使われても、すぐに仕事をして、チームを落ち着かせます。技術、人柄ともに「おりひめジャパン最後の砦」と言っていい人物です。仮にベンチから外れたとしても、素晴らしい人間性で若手を支えてくれます。
 日本の将来のために育成中なのが板野陽(広島)。ぐにゃぐにゃと長い手足でよく止めます。柔らかいから予測不能な捕り方をする反面、スローイングでは長い手足を上手に使いこなせないところがあります。それでも心身共に強くなってきているので、できるだけ多くの経験を積んでほしいGKです。

亀谷さくら
亀谷さくら

韓国、中国、カザフスタンに勝つには、亀谷さくらの爆発力が欠かせない

スタッフ:ウルリック・キルケリー監督は、いつの間にか選手たちをいい方向に導く、不思議な能力を持っています。この2年間で、選手全員の語学力が上がったのは、キルケリー監督の隠れた功績と言っていいでしょう。戦術面の細かいニュアンスを詰めるのが、櫛田亮介コーチ(三重監督)の仕事。ドイツでのプレー経験があるので、ヨーロッパのハンドボール観を汲み取り、意訳できる人物です。今回からベンチに入るアントニ・パレツキGKコーチの手腕にも注目です。

久保弘毅

おりひめジャパン代表合宿

おりひめジャパン代表合宿

 11月15日に東京のナショナルトレーニングセンターで、ハンドボール女子日本代表(おりひめジャパン)の公開練習と記者会見が行われました。30日から始まる熊本でのアジア選手権を前に、くまもんが応援に駆けつけるなど、注目度の高い公開練習になりました。

おりひめジャパン
おりひめジャパン

 練習終わりのストレッチに乱入するくまもん。選手1人ひとりとハイタッチをして、コミュニケーションを取っていました。

くまモン
くまモン

 今回のアジア選手権は、1年後の熊本世界選手権のプレ大会でもあります。世界選手権のポスターも完成しました。なかなかオシャレで、気の利いたフレーズが入っています。左のポスターには「誰がゴリひめじゃい?」の文字が。ちなみに二の腕のモデルは、GGS(ゴリゴリシスターズ)のリーダー・多田仁美(三重)という奇跡の一致。GGSの「おりひめジャパンをゴリひめジャパンにしたい」との野望が、一歩前進しました。「誰がゴリひめじゃい?」「私だよ!」

くまモン
くまモン

 「お手てでつなぐ希望。」の方は、モデルが横嶋彩(北國銀行)。証拠写真はこちら。

おりひめジャパン
おりひめジャパン

 記者会見では、ウルリック・キルケリー監督が「この1年でいい準備ができた。どこが相手でも勝って、アジアのチャンピオンになりたい」と、アジア選手権への抱負を語りました。就任当初の「我々には経験が必要だ」と繰り返していた頃とは、自信の程が違います。オーソドックスな6:0DFに、栗山雅倫前監督から受け継いだオープンDF、さらにはもう一種類の計3つのDFシステムが、おりひめジャパンのストロングポイントです。

おりひめジャパン
おりひめジャパン

 キャプテンの原希美(三重)のスピーチ。彼女のしゃべりには、いつも感心させられます。入りの「こんにちは」から柔らかなトーンで、自分の思いを伝えてくれます。口先だけの「感謝の気持ち」ではなく、自分の言葉で話しかけてくるから、彼女の言う「感謝の気持ち」は、ストンと腹に落ちるのです。

おりひめジャパン
おりひめジャパン

 ウルリックがもう1人増えたのか!? いいえ、今回からGKコーチのアントニ・パレツキコーチがベンチ入りします。昨年の世界選手権では、デンマーク代表のコーチとして、キルケリー監督が率いた日本代表と対戦しています。キルケリー監督とはデンマークリーグで共にプレーしていた旧知の仲。デンマーク男子の名GK二コラス・ランディンを指導したこともある、腕利きのGKコーチです。ウルリックがしれっとビッグネームをスカウトしてきました。

おりひめジャパン
おりひめジャパン

 パレツキコーチの愛称は「アンテック」。GKの板野陽(広島)によると「練習のバリエーションが豊富で、今までメニューがかぶったことがないくらい。ただ動くだけでなく、頭を使ったり、手と足を別々に動かす練習が多いので、いい刺激になっています」とのこと。教える内容はごく基本的なことが中心。「いい位置取りをして、いいバランスを保って、そこから体ごと捕りに行け。GKはスペシャルなポジションだから、技術、体力、ハンドボールの理解と、すべてにおいてチームのスペシャルであってほしい」と、パレツキコーチは語っていました。

おりひめジャパン
おりひめジャパン

 ウルリックとアンテックに櫛田亮介コーチ(三重)の3人が揃うと、輝きが違いますね。天の川のようなきらめきで、おりひめジャパンを勝利に導いてくれることでしょう。

おりひめジャパン
おりひめジャパン

女子のアジア選手権は11月30日から熊本で開催されます。予選ラウンド最終日(12月5日)のカザフスタン戦に勝って、A組1位で決勝トーナメントへ進出するのは最低条件。アジア大会で1点差で敗れた中国、アジアNO.1の韓国に勝って、目指すはアジアの頂点です。来年の世界選手権への出場権はすでに確定していますが、開催国のプライドを結果で示してほしいところです。

 第17回女子アジア選手権の公式HPはこちら。
https://japanhandball2019.com/asian-championship-2018/

久保弘毅