#36 中山佳穂(大阪体育大)
・日本の未来を担う大型左腕
学生からただ1人選出された、左利きのロングヒッターにかかる期待は大きい。ここ10年ほど、日本の左腕エースは育っている。視野の広さと独特の感性が武器だった早船愛子(元シャトレーゼほか)。小柄でもハイコーナーへの打ち分けが世界でも通用した藤井紫緒(大阪)。しなやかなカットインが得意な#4角南唯(北國銀行)。そのあとを受け継いでくれるであろう逸材が中山だ。身長170㎝越えで、縦の角度のあるロングシュートは、これまでの日本になかった武器。世界でも9mの外から打ち込めるだけの威力がある。
野球で言うなら真性のオーバースロー。左腕が耳をかするくらいの勢いで、真上から叩き込む。こういう打ち方の女子選手は、日本ではほとんどお目にかかれない。これでDF力がついてくれば、日本史上初の「真ん中を守れる大型左腕」誕生になる。今回はインカレ等もあって十分な代表活動はできていないためワンポイントになるだろうが、いずれは#27佐々木とともに、攻守におりひめジャパンを背負うことになるだろう。
大阪体育大では「ポストを見ながら、しつこく2対2」を教わっている。日本代表では「打ち屋」で期待されている。役割の違いに悩むこともあったというが、短時間に自分の強みを出していければ、インパクトプレーヤーになりそうな予感がする。短時間にロングを2本ぐらい決めてくれると、日本の得点力不足は解消される。右側がベンチに近い時間帯に、上手に使ってもらえたら。ウルリック・キルケリー監督の選手起用はひらめき重視なので、そこについていけるだけの対応力を。
#30 亀谷さくら(フランス・ブザンソン)
・熊本でサクラサク
父親がノルウェー人で、母親は日本人。かつてはノルウェー代表を目指していたが、当時の栗山雅倫監督の説得もあり、日本で代表選手になる道を選んだ。GKの指導がしっかりしているノルウェー育ちらしく、ダイナミックなキーピングで場の空気を変える。特に素晴らしいのが瞬時の詰め。カットインやポストシュートに対して、驚くほどの速さで前に詰めてくる。身長173㎝は世界で見るとあまり大きくないとはいえ、日本では過去に例がないレベルの爆発力を見せる。一部の間では「女子日本代表史上最高のGK」とも言われている。
長年ヨーロッパのリーグで揉まれてきただけあって、海外のシュートに臆することがない。当たり前のようにビッグセーブを連発する。強豪国を相手にも40%近い阻止率で対抗し、互角の勝負に持ち込む。世界選手権では、GKの阻止率33%が標準値。これくらいあれば勝負になる。トップクラスは40%。亀谷には最低でも33%を期待できるだけの能力がある。
ただ、数試合に一度は「てんで当たらない日」が出てくる。これもまたヨーロッパの選手らしいのだが、亀谷が不調な時にカバー出来る2番手GKを用意しておく必要がある。2年前はほぼ7mスローのみだった#12板野が成長しているので、上手に時間配分できれば、日本のGK陣は世界に出ても見劣りしないだろう。
日本語での受け答えもできるが、取材は「英語の方がありがたい」とのこと。母方の実家が岡山のため、たまに岡山弁が混じって、チームメイトを和ませる。「ハンドボール観が合う」というウルリック・キルケリー監督や、世界的な名GKコーチ、アントニ・パレツキコーチのアドバイスにもしっかり耳を傾ける。代表への合流は直前になるが、短期間でフィットしてくれるだろう。
久保弘毅
・せっかちジャパンの生き残り
まだ「おりひめジャパン」といった洒落た呼び名がなかった2011年頃、女子日本代表は一部の人から「せっかちジャパン」と呼ばれていた。当時の黄慶泳監督を筆頭に、選手にもせっかちさんが多かったため、そんな呼び名がついた。当時から若手でDFの中心に抜擢されていたのが永田しおりだった。デンマークにあとワンプレーで勝てそうだった2011年。フランス相手にリードながら、終盤の10連続失点で敗れた2013年。リオ五輪予選決勝敗退のショックを引きずった2015年。若返ったメンバーで決勝トーナメントに進めた2017年と、いずれも永田(し)はDFの要で経験している。5大会連続となる世界選手権への思いは、誰よりも強い。
「DFのオムロン」で土台を作り、数多くの国際大会で磨かれた「当たりの強さ」が一番の持ち味。足でついていける機動力と、海外の大型ポストにも負けない強さを合わせ持つ。永田(し)よりも筋トレの数値が高い若手もいるが、対人接触の強さは今もチーム随一。よく食べて、激しく当たる、ナチュラルな強さで、チームの背骨になる。その激しさゆえに海外の審判から目をつけられがちで、たまに退場になることもあるが、ライン際での信頼感は絶大なものがある。
OFではポスト(PV)に入り、ライン際で強さを発揮する。重さで勝負するポストだから、巧さと機動力で勝負する#3角南(果)と棲み分けができている。代表ではあまり見せないが、オムロンでは中継からドリブルで切れ込むなど、意外と小器用な一面もある。
日本の副キャプテンであり、DFの要。せっかち時代は末っ子キャラだったが、偉大なる先輩たちの後ろ姿を追いかけるうちに、いいベテランになってきた。キルケリー監督就任当初から「傾聴の姿勢」で指揮官の意図を汲み取ろうとするなど、ハンドボールリテラシーが非常に高い。フリースローを取りまくって、相手の攻撃を分断する永田(し)の姿が、チームに勇気と落ち着きをもたらす。
久保弘毅
#27 佐々木春乃(北國銀行)
・攻守のカギを握る
日本待望のロングヒッターで、なおかつ攻守両面で出来ることの幅が広い。おそらく今大会のキーパーソンになるだろう。これまでの女子日本代表に足りなかった部分を補ってくれる存在。佐々木の活躍で、試合の流れが大きく変わりそう。
まずロングが打てるのが最大の魅力。カットインが得意な選手ばかりが揃った今のメンバーだと、ヨーロッパ勢がベタ引きの6:0DFで守ってきた時に手詰まりになりやすかった。ここで佐々木と#36中山といった若い長距離砲が9mから決めてくれたら、相手もDFラインを下げられなくなる。DFが詰めてくれば、ポストパスも落とせるし、ロング一辺倒ではなくアウト割りもできる。攻撃の選択肢が多く、クレバーな選手なので、相手の出方に応じて得点パターンを変えられる。
守りでも今回は大役を担う。#25大山とともに5:1DFのトップを務める。長いリーチで相手のパス回しを邪魔しつつ、7人攻撃を仕掛ける相手にプラス1(1人余った状態)を作らせない。「1人で2人分守る」くらいの勢いで守るのが役目。日本オリジナルのオープンDF(3:3DFのように上と下を分けるDF)に対して、どの国も7人攻撃を多用してくる。そこに対抗するための武器が5:1DF。相手の戦術の「さらに上」をいくために、トップDFに入る選手の賢さが求められる。ウルリック・キルケリー監督は初めて見た時から、佐々木のインテリジェンスに目を奪われたという。
近未来のエース候補であり、攻守に流れを変える切り札とも言える選手。とにかく佐々木が出てきた時は要注目。明確な狙いを持ってコートに送り出されるはずだから、彼女の役割と仕事ぶりを見てほしい。佐々木で追加点を3点ぐらい取って、なおかつ5:1DFでリズムを作れたら、日本の上位進出は現実味を帯びてくる。
久保弘毅
#25 大山真奈(北國銀行)
・美しい状況判断
9月下旬の欧州遠征で、センター(CB)の#9横嶋彩がヒザのじん帯を損傷した。日本代表のコアメンバーとも言うべき選手が、自国開催の世界選手権を前にリタイア。ダメージは大きいが、ここは大山をセンターで育てるタイミングだとプラスにとらえたい。
視野が広く、相手の人数やスペースを見て、今、どこを攻めればいいかの判断が的確にできる。2対2から上手にプラス1(1人余った状況)を作れる。7人攻撃の理解度はチームで一番。どうしても点を取らなきゃいけない場面になれば、最終的には自分で行ける。ゲームの起承転結を描ける頭脳と、勝負の責任を背負う勇気の持ち主。ゲームメイカーとしての資質は十二分に持ち合わせている。
これまでは賢さと器用さが災いして、北國銀行でも日本代表でも「便利屋」に甘んじていた。実際、右バック(RB)に入れば、ボール回しの補助役として機能するし、左サイド(LW)でも勝負強さを発揮する。展開力のあるポスト(PV)としても、短時間なら使える。大山を「オールマイティー」で残しておけないのは少々つらいが、センターは本人が熱望していたポジション。東京五輪までの1年間は、大山の成長に託してほしいし、それだけの器だと思う。2枚目を守れる守備力も、チームのプラスになるはずだ。
まずは60分間、試合をコントロールすること。「たまに」でいいから、ステップシュートの怖さを見せること。「横嶋になろう」と変に気負うことなく、大山は大山で良さを発揮すれば、日本は安定して戦える。後ろには尊敬する#81石立真悠子も控えている。心配する必要はない。理にかなった「美しいハンドボール」を世界に見せる、大きなチャンスだ。
久保弘毅
ドイツより meine Lieblingssachen