「久保弘毅」カテゴリーアーカイブ

ハンドボールの魅力 - 3:2:1DF

3:2:1DF
       
     ● ●
● ● ●

IMG_5269

ピラミッド状に人を配置したディフェンスシステムです。5:1DFよりも2枚目(両45度)が前に出て、相手のエースに圧力をかけます。上手くはまればパスカットから速攻を量産できるシステムですが、運動量が必要になります。また連携を作り上げるのに時間がかかるので、単純に「3:2:1DFにすれば、速攻が増える」とは言い切れません。

相手に圧力をかけられる反面、相手にスペースを与えてしまうことにもなるので、ハイリスクハイリターンなシステムと言えるでしょう。1対1の勝負に負けると、簡単に間を割られてしまいます。スペースが広いので、サイドシュートやポストシュートを打たれるリスクも大きくなります。6:0DFよりもノーマークになる可能性が高いので、ノーマークに強いGKが必要になってきます。

一般的に3:2:1DFの攻略方法は「ダブルポストになった瞬間」だと言われています。誰かが切ってダブルポストになると、2人目のポストを誰が見るかが曖昧になるからです。その弱点に対応するために、ダブルポストになった時はトップがライン際に下がるバリエーションがあります。

選手の配置も見どころのひとつです。一般的にトップは大きくて運動量のある選手、両45度はエースキラーで身体接触を好む選手、後方にいるフルバックは大型で味方に指示を出せる選手が適役です。しかし速攻での走る距離を考えて、トップにポストの選手を置き、両45度をサイドの選手に任せる方法もあります。こうすると全員の走る距離が短くなるので、体力を消耗することなく攻守の切り替えができます。湧永製薬が3:2:1DFをする時は、ポストの選手をトップにしています。

3:2:1DFで有名なのは韓国代表です。男子も女子もここぞという場面で高い3:2:1DFで相手の足を封じ、速攻につなげてきました。韓国伝統のフットワークがあるから成り立つシステムとも言えるでしょう。日本ではトヨタ自動車東日本が3:2:1DFを得意としています。90年代後半の中村荷役の黄金期は、3:2:1DFからの速攻で他を寄せつけませんでした。

日本代表の名ディフェンダーだった永島英明(元大崎電気)は、3:2:1DFのフルバックをしていた時にこう言っていました。「3:2:1DFは隙の多いシステムだけど、味方を動かすことで相手からスペースが見えにくくなります。フルバックは味方を動かしながらスペースを消さないといけないので、頭が疲れますね」 フルバックの危機管理能力に注意しながら観戦できるようになれば、かなりの上級者です。
久保弘毅

ハンドボールの魅力 - 5:1DF - 2

・5+1DF
________●
●●●●●

トップが1人前にでるシステムでも少し変則的なものを、最近では5+1DFと呼んでいます。通常の5:1DFではトップが真ん中にいるのに対し、5+1DFではトップが相手のエースにマンツーマン気味についたり、左右に動き回ったりと、動きに自由度があります。「マンツーマンでエースについているようで、ついていないような」距離感で相手を惑わすのが最大の狙い。小さくても機動力があり、「1人で2人を守る」くらいのクレバーな選手がトップに適任です。

5+1DFのトップで代表的なのが、大崎電気の馬場佑貴です。流れを変えたいタイミングで出てきて、相手のパス回しを分断します。大崎の試合を見る時は、どの時間帯で馬場が出てくるかに着目するといいでしょう。大崎では他にも、ベテランの豊田賢治が5+1DFのトップに入る場合があります。これは元木博紀と2人同時にコートに立った場合の作戦だと思われます。豊田はパスカットがとても上手い選手ですし、自由に動くのを好みますが、味方の陰から飛び出したいタイプでもあるので、トップで動き回るよりは、サイドDF(1枚目)にいた方がよさを発揮します。

女子ではソニーセミコンダクタの本多恵が5+1DFのトップで有名です。6:0DFの右の2枚目から少しずつ前に出て、いつのまにか相手エースにマンツーマンでつくような変化を得意とし ています。オーソドックスな6:0DFが得意なオムロンも、勝連智恵をトップに置く5+1DFを用意しています。本多、勝連ともに判断能力に優れ、ハンド ボールIQが非常に高い選手です。

5+1DFではトップの選手の「つかず離れず」の距離感を楽しんでください。

ソニーセミコンダクタ 本多恵
ソニーセミコンダクタ 本多恵

久保弘毅

画像は手の球日記
http://www.plus-blog.sportsnavi.com/handjpn/
より

ハンドボールの魅力-5:1DF

・5:1DF
   ●
●●●●●
ハンドボールの流れを変える要素のひとつであるディフェンスシステムについて、さらに見ていきます。

5:1DFは、6:0DFから1人前に出たシステムです。トップの選手が相手のパス回しを邪魔して、攻撃を分断します。詳しいことがわからなくても「パスがリズムよく回っているか」さえわかっておけば、攻撃が上手くいっているかどうかがわかります。ポン、ポンとリズムよくパスがつながっている時は、攻撃が成功する確率も高くなります。パスが渡ってから妙な間ができたり、ドリブルなどでボールを持ち過ぎる時間が増えていたら、攻撃が滞っています。裏を返せば、ディフェンスが成功していると言えます。

話を5:1DFに戻すと、トップには大きくて動ける選手が適任です。長いリーチでパス回しのリズムを崩し、大きな一歩でバックプレーヤーに圧力をかけ、相手の攻撃の方向づけることができれば、後ろの5人とGKも守りやすくなります。トップの選手が「どっちに(相手の攻撃を)誘導しているか」を観察するのも面白いでしょう。

5:1DFで有名なのは大同特殊鋼です。トップで手足の長い千々波英明が動き回り、フルバック(後ろの5人の真ん中)にはベテランの武田享がいて、周りに指示を出します。大同のプレーオフでの強さは、千々波―武田の「縦のライン」があったからと言われています。最近は元韓国代表の朴重奎がフルバックに入りましたが、新たな並びで連携を構築できるか注目です。

5:1DFにも、もちろん弱点はあります。6:0DFよりもライン際のスペースが広くなるので、間を割られるリスクも増えてきます。ライン際のスペースが広くなる分、サイドシュートやポストシュートも多くなります。

IMG_5946

 

久保弘毅

ハンドボールの魅力-6:0DF

6:0DF 久保弘毅
●●●●●●

DSC_4397

6:0DFは6mのゴールライン付近に6人が一線になって並ぶシステムです。最もオーソドックスで、相手にスペースを与えない守り方です。上背のある選手を揃えて6:0DFをすれば、ロングシュートを枝(ディフェンスの上げた腕)で防げますし、間を割られるリスクも少なくなります。大型選手がライン際にべったりと引いて(通称「べた引き」)守れば、理論上は最強です。

ところが6:0DFの枝の上からロングシュートを打ち込まれると、苦しくなります。国際大会になると、11mぐらいから打ち込めるバックプレーヤーが、どの国にも必ず1人はいます。ロングが怖くて前に出ると、ポストにパスを落とされて、ポストを守ろうとするとロングを打ち込まれる――こうなると完全に悪循環ですね。マークの受け渡しが不十分になり、2人揃って前に出ようものなら、ポストが完全にノーマークになります。

ロングとポストのシンプルな2対2だけど、ロングシューターに威力があり、ポストプレーヤーが大型だと、これだけやられてしまいます。中東勢にやられる時のよくあるパターン。「決してきれいなハンドボールじゃないんだけどな」といった負け惜しみのひとつも言いたくなりますが、ハンドボールはコンタクトスポーツで、なおかつサイズスポーツでもあります。

こういう大きなポストを守るために、6:0DFだけどポストだけはマンツーマンで守る方法もあります。相手のポストが移動した時に、ディフェンスがそのままついて行っているかどうかが、ひとつのチェックポイントになります。

その他にも6:0DFだけど2枚目(両端から2人目)が高めの位置でピストンする守り方もあります。見た目が4:2DFのような6:0DFもあります。この場合は2枚目の運動量が生命線になってきます。

オーソドックスな6:0DFで有名なのは、男子ならトヨタ車体、女子ならオムロンでしょう。北國銀行はサイズがない分、同じ6:0DFでもピストン(出たり戻ったりする動き)が頻繁になります。高校では女子の高松商業がオーソドックスな6:0DFだけで日本一になっています。マンツーマンなど奇策を一切使わず、相手のロングシューターを上手に封じます。高松商業の田中潤監督は「ウチは運動量が少ないから『あまり守ってなさそうなのに、なんで守れるの?』とよく質問されますけど、一生懸命頭を使って守っているんですよ」と言っていました。戦術理解がしっかりしていれば、オーソドックスな6:0DFが最強なのでしょう。

ハンドボールの魅力-ディフェンスシステムを見る

・ディフェンスシステムを見る 久保弘毅

ディフェンスシステムが変わると、試合の流れも変わります。また、どういったディフェンスシステムを使い分けているかで、チームの特徴も見えてきます。

ハンドボールはゾーンディフェンスで守ります。なぜならハンドボールはバスケットボールよりもコートが広いので、1対1をマンツーマンで守り切るのが難しいからです。1対1の原則は、スペースが広ければ広いほど攻撃側が有利になります。

だからディフェンス6人をいろんな形に並べて、目の前の選手を「そのまま」マークしたり、隣とマークマンを「スイッチ」(もしくは「チェンジ」)したりしながら守ります。原則として目の前のゾーンにいる選手が、自分の受け持ちになります。この「自分のマークが取れている」状態かどうかを見ていくと、わかりやすいでしょう。

相手が速攻で押してきた時も、まずは個々がマークを取ることから始めます。セットディフェンスの最初の状態では必ずマークが取れているはずです。攻撃側はマークを外したりミスマッチを作ったりするために、ポジションチェンジで揺さぶりをかけます。逆に守る側はマークがずれたり、重なったりしないよう、声を出して隣との連携を図ります。

「そのまま」と「スイッチ」を上手に使い分けて、マークの受け渡しが完璧であれば、理論上は失点することはありません。しかし実際にはサイズのミスマッチができたり、ノーマークの選手を作ってしまったりと言った事態が起こります。また、どのシステムにも必ず弱点があり、変則的なシステムほど、はまった時は鮮やかですが、崩されるリスクも大きいことも知っておきましょう。

DSC_4397