#30 亀谷さくら(フランス・ブザンソン)
・熊本でサクラサク
父親がノルウェー人で、母親は日本人。かつてはノルウェー代表を目指していたが、当時の栗山雅倫監督の説得もあり、日本で代表選手になる道を選んだ。GKの指導がしっかりしているノルウェー育ちらしく、ダイナミックなキーピングで場の空気を変える。特に素晴らしいのが瞬時の詰め。カットインやポストシュートに対して、驚くほどの速さで前に詰めてくる。身長173㎝は世界で見るとあまり大きくないとはいえ、日本では過去に例がないレベルの爆発力を見せる。一部の間では「女子日本代表史上最高のGK」とも言われている。
長年ヨーロッパのリーグで揉まれてきただけあって、海外のシュートに臆することがない。当たり前のようにビッグセーブを連発する。強豪国を相手にも40%近い阻止率で対抗し、互角の勝負に持ち込む。世界選手権では、GKの阻止率33%が標準値。これくらいあれば勝負になる。トップクラスは40%。亀谷には最低でも33%を期待できるだけの能力がある。
ただ、数試合に一度は「てんで当たらない日」が出てくる。これもまたヨーロッパの選手らしいのだが、亀谷が不調な時にカバー出来る2番手GKを用意しておく必要がある。2年前はほぼ7mスローのみだった#12板野が成長しているので、上手に時間配分できれば、日本のGK陣は世界に出ても見劣りしないだろう。
日本語での受け答えもできるが、取材は「英語の方がありがたい」とのこと。母方の実家が岡山のため、たまに岡山弁が混じって、チームメイトを和ませる。「ハンドボール観が合う」というウルリック・キルケリー監督や、世界的な名GKコーチ、アントニ・パレツキコーチのアドバイスにもしっかり耳を傾ける。代表への合流は直前になるが、短期間でフィットしてくれるだろう。
久保弘毅
・せっかちジャパンの生き残り
まだ「おりひめジャパン」といった洒落た呼び名がなかった2011年頃、女子日本代表は一部の人から「せっかちジャパン」と呼ばれていた。当時の黄慶泳監督を筆頭に、選手にもせっかちさんが多かったため、そんな呼び名がついた。当時から若手でDFの中心に抜擢されていたのが永田しおりだった。デンマークにあとワンプレーで勝てそうだった2011年。フランス相手にリードながら、終盤の10連続失点で敗れた2013年。リオ五輪予選決勝敗退のショックを引きずった2015年。若返ったメンバーで決勝トーナメントに進めた2017年と、いずれも永田(し)はDFの要で経験している。5大会連続となる世界選手権への思いは、誰よりも強い。
「DFのオムロン」で土台を作り、数多くの国際大会で磨かれた「当たりの強さ」が一番の持ち味。足でついていける機動力と、海外の大型ポストにも負けない強さを合わせ持つ。永田(し)よりも筋トレの数値が高い若手もいるが、対人接触の強さは今もチーム随一。よく食べて、激しく当たる、ナチュラルな強さで、チームの背骨になる。その激しさゆえに海外の審判から目をつけられがちで、たまに退場になることもあるが、ライン際での信頼感は絶大なものがある。
OFではポスト(PV)に入り、ライン際で強さを発揮する。重さで勝負するポストだから、巧さと機動力で勝負する#3角南(果)と棲み分けができている。代表ではあまり見せないが、オムロンでは中継からドリブルで切れ込むなど、意外と小器用な一面もある。
日本の副キャプテンであり、DFの要。せっかち時代は末っ子キャラだったが、偉大なる先輩たちの後ろ姿を追いかけるうちに、いいベテランになってきた。キルケリー監督就任当初から「傾聴の姿勢」で指揮官の意図を汲み取ろうとするなど、ハンドボールリテラシーが非常に高い。フリースローを取りまくって、相手の攻撃を分断する永田(し)の姿が、チームに勇気と落ち着きをもたらす。
久保弘毅
#27 佐々木春乃(北國銀行)
・攻守のカギを握る
日本待望のロングヒッターで、なおかつ攻守両面で出来ることの幅が広い。おそらく今大会のキーパーソンになるだろう。これまでの女子日本代表に足りなかった部分を補ってくれる存在。佐々木の活躍で、試合の流れが大きく変わりそう。
まずロングが打てるのが最大の魅力。カットインが得意な選手ばかりが揃った今のメンバーだと、ヨーロッパ勢がベタ引きの6:0DFで守ってきた時に手詰まりになりやすかった。ここで佐々木と#36中山といった若い長距離砲が9mから決めてくれたら、相手もDFラインを下げられなくなる。DFが詰めてくれば、ポストパスも落とせるし、ロング一辺倒ではなくアウト割りもできる。攻撃の選択肢が多く、クレバーな選手なので、相手の出方に応じて得点パターンを変えられる。
守りでも今回は大役を担う。#25大山とともに5:1DFのトップを務める。長いリーチで相手のパス回しを邪魔しつつ、7人攻撃を仕掛ける相手にプラス1(1人余った状態)を作らせない。「1人で2人分守る」くらいの勢いで守るのが役目。日本オリジナルのオープンDF(3:3DFのように上と下を分けるDF)に対して、どの国も7人攻撃を多用してくる。そこに対抗するための武器が5:1DF。相手の戦術の「さらに上」をいくために、トップDFに入る選手の賢さが求められる。ウルリック・キルケリー監督は初めて見た時から、佐々木のインテリジェンスに目を奪われたという。
近未来のエース候補であり、攻守に流れを変える切り札とも言える選手。とにかく佐々木が出てきた時は要注目。明確な狙いを持ってコートに送り出されるはずだから、彼女の役割と仕事ぶりを見てほしい。佐々木で追加点を3点ぐらい取って、なおかつ5:1DFでリズムを作れたら、日本の上位進出は現実味を帯びてくる。
久保弘毅
#25 大山真奈(北國銀行)
・美しい状況判断
9月下旬の欧州遠征で、センター(CB)の#9横嶋彩がヒザのじん帯を損傷した。日本代表のコアメンバーとも言うべき選手が、自国開催の世界選手権を前にリタイア。ダメージは大きいが、ここは大山をセンターで育てるタイミングだとプラスにとらえたい。
視野が広く、相手の人数やスペースを見て、今、どこを攻めればいいかの判断が的確にできる。2対2から上手にプラス1(1人余った状況)を作れる。7人攻撃の理解度はチームで一番。どうしても点を取らなきゃいけない場面になれば、最終的には自分で行ける。ゲームの起承転結を描ける頭脳と、勝負の責任を背負う勇気の持ち主。ゲームメイカーとしての資質は十二分に持ち合わせている。
これまでは賢さと器用さが災いして、北國銀行でも日本代表でも「便利屋」に甘んじていた。実際、右バック(RB)に入れば、ボール回しの補助役として機能するし、左サイド(LW)でも勝負強さを発揮する。展開力のあるポスト(PV)としても、短時間なら使える。大山を「オールマイティー」で残しておけないのは少々つらいが、センターは本人が熱望していたポジション。東京五輪までの1年間は、大山の成長に託してほしいし、それだけの器だと思う。2枚目を守れる守備力も、チームのプラスになるはずだ。
まずは60分間、試合をコントロールすること。「たまに」でいいから、ステップシュートの怖さを見せること。「横嶋になろう」と変に気負うことなく、大山は大山で良さを発揮すれば、日本は安定して戦える。後ろには尊敬する#81石立真悠子も控えている。心配する必要はない。理にかなった「美しいハンドボール」を世界に見せる、大きなチャンスだ。
久保弘毅
#20 秋山なつみ(北國銀行)
・おりひめの忠犬ハチ公
コートネームは「ハチ」。普通は大学、社会人と進むにつれて、コートネームも変わっていくのだが、秋山の場合は「ハチっぽいから」との理由で、洛北高時代から今まで変わらず「ハチ」と呼ばれている。色白で親しみやすいルックス。鍛え抜かれたハムストリングス。真面目に取り組む姿勢。チームへの忠誠心に人懐っこさなど、忠犬ハチ公を想起させる要素は多い。速攻では誰よりも早く飛び出し、ゴールまでボールを運んでくれる。
性格はいたって真面目。環境になじむまで少し時間がかかるが、慣れてくるにしたがって良さが出てくる。右サイド(RW)と右バック(RB)の両方がこなせて、シュート技術も確か。特に右サイドでは左利きの利点を生かして、遠めのシュートでGKを動かす。昨年のアジア選手権では、#21池原綾香、#7藤田明日香の不調をカバーし、期待以上の活躍を見せてくれた。いい攻撃をすると必ず右サイドが余るので、右側の3人の精度は大事。
世界選手権は初舞台だが、海外の大型GKへの免疫はついているはず。落ち着いて自分の持っているものを出せば、大会にもスムーズに入っていけるだろう。そういう意味では初戦のアルゼンチン戦が重要になってくる。やればできる子。いつもの通りにやれば、世界でも十分に戦える。慣れてくれば、持ち前の人懐っこさも見られるだろう。自国開催のアドバンテージを最大限に生かして、いい意味で「いつもの秋山なつみ」でコートに立ってくれたら、結果は後からついてくる。北國
銀行で途中から試合に入る経験を積んできた
ので、先発でも途中出場でも力を発揮してく
れそう。最近はクロスアタックを積極的に仕
掛けるなど、守備への意識も高まっている。
7月23日生まれで、名前は「なつみ」。非常に覚えやすい。
久保弘毅
ドイツより meine Lieblingssachen