・ハンドボールの魅力
ハンドボールは欧州で人気のスポーツです。サッカーよりも得点が入り、バレーボールにはない激しい身体接触があって、バスケットボールよりもシュートの迫力があります。ラグビーとは違って、前に思い切りボールを投げられる爽快感も魅力のひとつです。全力で走り、全力で跳んで、全力で投げる。人間の欲求を全開にできるスポーツだから、多くの人たちから支持されてきたのでしょう。また選手の入れ替わりが自由だから、ベンチ入り全員に役割があり、ベンチワークの妙も楽しめます。
ルールはそんなに細かくありません。危険なプレー、フェアプレイの精神に反するプレーが2分間退場(もしくは失格)になるだけで、多少の身体接触は50-50(フィフティフィフティ)と見なされ、フリースローで仕切り直しになります。この身体接触がハンドボールの醍醐味。正当な身体接触で相手を守る。当たられながらもボールをつないで、シュートを決める。ラフではなくハードなプレーが、見る人の心を揺さぶります。
判定の基準はイエローカードで示されます。試合の前半に「次に同じプレーをしたら退場になるよ」という意味合いを込めて、審判がイエローカード(警告)を出しています。個人で2枚目、チームで4枚目からは2分間退場になります。選手はイエローカードでその日の判断基準を知り、「ここまでなら許されるかな」とプレーを微調整しています。
ハンドボールを一度見れば、誰もが「面白い」と言ってくれます。それだけの魅力がある競技とも言えるでしょう。より深くハンドボールを楽しむための見方を、これから紹介していきます。
・4つの局面に分けて考える
ハンドボールは攻守が目まぐるしく入れ替わるスポーツです。非常にエキサイティングではありますが、試合を追いかけるだけでは「面白かったね」で終わってしまいます。試合の局面を整理ながら見ると、より理解が深まり、チームのコンセプトなどもわかるようになります。
ハンドボールの試合の局面は、大きく分けて4つに分類できます。4つの局面は1→2
→3→4→1と循環しています。
1:セットDF
2:DFから速攻
3:セットOF
4:戻り
この分類はハンドボールだけでなく、サッカーやバスケットボールなど、多くのボールゲームに共通する考え方です。4つの局面に分けて議論することで、試合の内容やチームが抱える課題などが見えてきます。
たとえば、あるチームが27-33で負けました。1試合で30点以上取られるのは取られ過ぎです。しかし監督も選手も「DFは悪くなかった」「セットでは守れていた」と言います。DFがよかったのなら、失点は少なくなるはずなのに、と誰もが思うでしょう。失点が多かったのは、速攻で相手に走られたからです。速攻で防ぎようのないノーマークシュートが何本もあったから、結果として30点以上の失点になったのです。
裏返しの例もあります。短期決戦で勝つために、あるチームの監督はDFを集中的に強化しました。しかしそのチームのエースは「ウチは攻撃力が足りないのに、守りの練習ばっかりしている」とこぼしていました。このエースが言うように、ハンドボールは点取りゲームです。点を取らなきゃ勝てません。しかしセットでのDFを強化すれば、DFから速攻の得点が増えて、楽に点が取れるようになるのです。相手の速攻を防ぐためにしっかりと戻りを意識して、セットDFで守り切れば、速攻で点が取りやすくなります。だから得点力が劣るチームでも、DFを強化すればシンプルな得点が増えるのです。
ただし、レベルが上がるほど、どのチームもDFと戻りがしっかりしてきます。速攻で点を取ろうにも戻りが早くて、なかなか攻め切れません。そうなるとセットOFの地力が問われます。ロングシュートの威力だけでなく、6対6をどうやって崩すかといった思考力が重要になってきます。
サッカーにたとえるなら、速攻はカウンターアタックです。守って、守って、前線に縦パスを1本出して点を取る。リアクションで取る得点と言っていいでしょう。一方セットOFは、サッカーで言うところのパスでつないで崩す得点です。サッカーではよく「美しい」「美しくない」といった議論がありますが、同じことはハンドボールでも言えそうです。
セットで組み立てて、美しい点の取り方にこだわるのか。それともカウンターでシンプルな得点を重ねて、勝ちにこだわるのか。ハンドボールはサッカーよりも点数が入るので、カウンターアタックだけでは行き詰ります。ルール改正でアップテンポな試合展開が増えましたが、根本にあるのは6対6をどうやって崩すかといったやり取りです。パスをつないでDFを崩し、プラスワン(1人余った状態。サッカーなどでも言う「数的優位」)を作り出すのが「美しい」のです。
さらに言うなら、1人の大エースに頼るのではなく、コート上の6ポジションでまんべんなく点を取るのが理想です。レベルの高い選手を揃えて、どこからでも点が取れる攻撃ができているか。得点分布の美しさにも注目すると、チームの色が見えてくるでしょう。
久保 弘毅