「久保弘毅」カテゴリーアーカイブ

ハンドボールの魅力-点数をコントロールする

・点数をコントロールする 久保弘毅
点差だけでなく、全体の得点数にも注目してください。得点数を見れば、試合のコンセプトも見えてきます。ハンドボールは1試合25点ぐらいが目安になり、20点を切るようだとロースコア、30点を超えるようならハイスコアと言われます。セットオフェンスの「良質な得点」だけだと、25点ぐらいが限度です。上積みをするには、速攻での「シンプルな得点」がどうしても必要になってきます。

たとえば高校の男子で、速攻が得意なチーム同士になると、42-34のようなスコアになりがちです。反対に女子のように守り合いを志向するチーム同士の対戦では14-12のようなロースコアに落ち着きます。速攻で押さずに、セットオフェンスをゆっくりやることで、攻撃回数をわざと減らしているのです。

ハイスコアを志向するチームとロースコアを志向するチームが対戦したら、テンポのコントロールが見どころになってきます。ロースコアにしたいチームは、走りたい相手をじらすかのように、わざとゆっくりボールを運びます。時間をかけてセットオフェンスを組み立てていくうちに、いつの間にか相手の足が止まってしまうのが狙いです。逆にハイスコアにしたいチームは、序盤から速攻、クイックスタートで押しまくり、相手の体力を削りにかかります。「訳がわからないうちに失点が増えていく」状況に相手を追い込むのが、速攻で勝負したいチームの狙いです。

こういったゲームコントロールが巧みなのが、今季の三重バイオレットアイリスです。基本はロースコアで統一しながら、守りでリズムを作りたい相手には速攻を増やして、セットで守る時間を作らせません。櫛田亮介監督がしっかりとゲームをデザインしている印象があります。

櫛田監督
櫛田監督

ハンドボールの魅力-得点差を見る

ハンドボールチャンピオンズリーグ 2013/14 バルセロナ対ヴェスプレーム
ハンドボールチャンピオンズリーグ 2013/14 バルセロナ対ヴェスプレーム

ハンドボールを見る

得点差を見る
試合の流れをつかむには、点差に注意して試合を見るといいでしょう。ハンドボールでは昔から「奇数の点差」にすることが、ひとつのセオリーになっています。同点からまず1点差にする。2点差から3点差へ、4点差から5点差へというように、奇数の得点差がひとつの目安だと言われています。経験則から生まれた言葉だと思われますが、実際に試合を見る際にいい基準になります。

接戦になると、だいたい離れても2点差までで試合が推移していきます。ここで3点差をつけたチームが、一歩抜け出したと言っていいでしょう。5点差までくると、相手にも焦りが出てきます。7点差、9点差と来て11点差までなると、相手にも諦めムードが漂います。

このように点差に着目しながら試合を見ていると、勝負どころがわかりやすくなります。「ここでとどめを刺されたら、もう苦しいな」とか「ここで息を吹き返したな」といった分岐点が見えると、ハンドボール観戦が楽しくなってきます。

たとえば後半10分6点リードで、相手が攻撃でミスをしました。ボールを奪ってワンマン速攻。ここで決めておけば、完全に相手の息の根を止められるという場面です。しかしここでシュートを止められてしまうと、その後の展開がややこしくなります。

また前半8-4とリードしている場面でディフェンスが頑張り、相手をパッシブプレー寸前まで追い込みました。ところが相手エースの苦し紛れに打ったシュートが入って、8-5になりました。こうなると楽勝ムードは吹っ飛び、もつれた試合になっていきます。土壇場でエースの得点を許したばかりに、相手を勢いづかせてしまったのです。

試合の分岐点が見えてくると、そこで決めている選手が誰なのかもわかります。大事なところで決めるのは、いつも10点取っているエースとは限りません。4~5点しか取らないけども、大事なところで必ずと言っていいほど得点を決める選手がいるものです。そういう勝負の責任を背負える選手に注目してください。日本リーグなら岸川英誉(大同特殊鋼)、植垣健人(大崎電気)、東濱裕子(オムロン)、横嶋かおる(北國銀行)、勝連智恵(オムロン)が勝負強いと言われています。

久保弘毅

ハンドボールの魅力-4つの局面に分けて考える

・ハンドボールの魅力

ハンドボール チャンピオンズリーグ
ハンドボール チャンピオンズリーグ

ハンドボールは欧州で人気のスポーツです。サッカーよりも得点が入り、バレーボールにはない激しい身体接触があって、バスケットボールよりもシュートの迫力があります。ラグビーとは違って、前に思い切りボールを投げられる爽快感も魅力のひとつです。全力で走り、全力で跳んで、全力で投げる。人間の欲求を全開にできるスポーツだから、多くの人たちから支持されてきたのでしょう。また選手の入れ替わりが自由だから、ベンチ入り全員に役割があり、ベンチワークの妙も楽しめます。

ルールはそんなに細かくありません。危険なプレー、フェアプレイの精神に反するプレーが2分間退場(もしくは失格)になるだけで、多少の身体接触は50-50(フィフティフィフティ)と見なされ、フリースローで仕切り直しになります。この身体接触がハンドボールの醍醐味。正当な身体接触で相手を守る。当たられながらもボールをつないで、シュートを決める。ラフではなくハードなプレーが、見る人の心を揺さぶります。

判定の基準はイエローカードで示されます。試合の前半に「次に同じプレーをしたら退場になるよ」という意味合いを込めて、審判がイエローカード(警告)を出しています。個人で2枚目、チームで4枚目からは2分間退場になります。選手はイエローカードでその日の判断基準を知り、「ここまでなら許されるかな」とプレーを微調整しています。

ハンドボールを一度見れば、誰もが「面白い」と言ってくれます。それだけの魅力がある競技とも言えるでしょう。より深くハンドボールを楽しむための見方を、これから紹介していきます。

・4つの局面に分けて考える
ハンドボールは攻守が目まぐるしく入れ替わるスポーツです。非常にエキサイティングではありますが、試合を追いかけるだけでは「面白かったね」で終わってしまいます。試合の局面を整理ながら見ると、より理解が深まり、チームのコンセプトなどもわかるようになります。

ハンドボールの試合の局面は、大きく分けて4つに分類できます。4つの局面は1→2
→3→4→1と循環しています。

1:セットDF
2:DFから速攻
3:セットOF
4:戻り

この分類はハンドボールだけでなく、サッカーやバスケットボールなど、多くのボールゲームに共通する考え方です。4つの局面に分けて議論することで、試合の内容やチームが抱える課題などが見えてきます。

たとえば、あるチームが27-33で負けました。1試合で30点以上取られるのは取られ過ぎです。しかし監督も選手も「DFは悪くなかった」「セットでは守れていた」と言います。DFがよかったのなら、失点は少なくなるはずなのに、と誰もが思うでしょう。失点が多かったのは、速攻で相手に走られたからです。速攻で防ぎようのないノーマークシュートが何本もあったから、結果として30点以上の失点になったのです。

裏返しの例もあります。短期決戦で勝つために、あるチームの監督はDFを集中的に強化しました。しかしそのチームのエースは「ウチは攻撃力が足りないのに、守りの練習ばっかりしている」とこぼしていました。このエースが言うように、ハンドボールは点取りゲームです。点を取らなきゃ勝てません。しかしセットでのDFを強化すれば、DFから速攻の得点が増えて、楽に点が取れるようになるのです。相手の速攻を防ぐためにしっかりと戻りを意識して、セットDFで守り切れば、速攻で点が取りやすくなります。だから得点力が劣るチームでも、DFを強化すればシンプルな得点が増えるのです。

ただし、レベルが上がるほど、どのチームもDFと戻りがしっかりしてきます。速攻で点を取ろうにも戻りが早くて、なかなか攻め切れません。そうなるとセットOFの地力が問われます。ロングシュートの威力だけでなく、6対6をどうやって崩すかといった思考力が重要になってきます。

サッカーにたとえるなら、速攻はカウンターアタックです。守って、守って、前線に縦パスを1本出して点を取る。リアクションで取る得点と言っていいでしょう。一方セットOFは、サッカーで言うところのパスでつないで崩す得点です。サッカーではよく「美しい」「美しくない」といった議論がありますが、同じことはハンドボールでも言えそうです。

セットで組み立てて、美しい点の取り方にこだわるのか。それともカウンターでシンプルな得点を重ねて、勝ちにこだわるのか。ハンドボールはサッカーよりも点数が入るので、カウンターアタックだけでは行き詰ります。ルール改正でアップテンポな試合展開が増えましたが、根本にあるのは6対6をどうやって崩すかといったやり取りです。パスをつないでDFを崩し、プラスワン(1人余った状態。サッカーなどでも言う「数的優位」)を作り出すのが「美しい」のです。

さらに言うなら、1人の大エースに頼るのではなく、コート上の6ポジションでまんべんなく点を取るのが理想です。レベルの高い選手を揃えて、どこからでも点が取れる攻撃ができているか。得点分布の美しさにも注目すると、チームの色が見えてくるでしょう。

久保 弘毅

フリーランスライター 久保 弘毅氏がハンドボールのコラム執筆

フリーのスポーツライターで、特にハンドボールや野球などに詳しい久保 弘毅氏に、ハンドボールの魅力を始め、選手などのコラムをお書き頂くことになりました。

こちらから久保氏の記事をご覧頂けます。
http://neckar.jp/blog/?cat=37

 

ご存知の方も多いと思いますが、久保さんの紹介をさせて頂きます。

久保弘毅(くぼ ひろき)  元実況アナウンサーで、現在はフリーのスポーツライター。実況を通じてハンドボールの虜となり、ハンドボールを追い続けるためにライターに転向した。日本唯一のハンドボール専門誌「スポーツイベント・ハンドボール」で、連載「VOICE OF HANDBALL」他を執筆中 。

手の球日記
ハンドボール日本代表と日本リーグの私的選手名鑑
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コラムは週に1回程度でご案内する予定です。

皆様お楽しみに!