日本代表合宿レポート
東京の味の素ナショナルトレーニングセンターで、ハンドボール日本男子代表の代表合宿が行われています。5月2日はメディア公開日でした。世界的な名将ダグル・シグルドソンヘッドコーチが就任してから初の合宿とあって、多くの報道陣が詰めかけました。
今回の合宿では22名の日本人選手がノミネートされた他、外国人のゲストプレーヤーが招かれています。台湾人の趙顯章(琉球コラソン)とアイスランドの若い選手たちが、日本代表に交じって練習していました。狙いは、日本人が普段体感できないサイズやフィジカル、シュートを肌で感じること。シグルドソンHCは「日本の選手は、これまで対戦したことのない、タイプの異なる選手と当たる必要がある。そういう選手に対してどう反応するかを学んでほしい。だからゲストプレーヤーを海外から呼んで、練習をレベルアップさせている」と言っていました。
GKの木村昌丈(大崎電気)は「日本にいると、大きい選手の速いシュートを止める機会がなかなかないから、いい刺激になっています」と言い、外国人と日本人のシュートの違いをこう説明していました。
「日本人は小さな頃から『全身を使ってシュートを打て』と教わっているから、身体の動きを見ればシュートコースがだいたいわかります。ヨーロッパの選手は手首とヒジだけで打ってくるので、そこが日本人との大きな違い。でも練習していくうちに、見えるようになってきました」
北林健治GKコーチも「びっくりさえしなければ、捕れるものですよ」と言っていたように、慣れで解決できる部分も大きいようです。また今回は世界に対抗するために、佐々木亮輔(豊田合成)、西出克己(トヨタ自動車東日本)、岡本大亮(トヨタ車体)と、190cm級の若手GKが呼ばれました。3人ともまだ国内での実績はありませんが、サイズを買われての初選出です。
報道陣の注目を集めていたのは、1月の世界選手権でも活躍した徳田新之介(筑波大4年)と玉川裕康(国士舘大4年)の大学生コンビ。大学は春のリーグ戦真っ最中ですが、チーム側の理解もあり、また本人たちもスケジュールを調整しながら、代表合宿に参加しています。
melisの契約選手でもある徳田は「ダグル監督が求める高いレベルについていけるようにしたい。代表に選ばれ続けるためにも、学生界でも『徳田が一番』と呼ばれるようにならないと」と、意気込みを語りました。岩国工時代から国際試合に強い徳田は、高校の恩師・倉谷康彦監督からも「いくら国際試合に強くても、国内で結果を残さないと代表で生き残れないぞ」と言われています。そのあたりを意識しての発言でしょうか。
玉川はシグルドソンHCから「DFでは頭を使いながらも、もっとリラックスして身体を使えるようになれば、もっと楽にプレーできる」とのアドバイスをもらったそうです。身長197cmの玉川は、シグルドソン監督が探し求めている「DFの真ん中を任せられる選手」の有力候補。長い手足をのびやかに使えるようになれば、世界に対抗できる大型ディフェンダーになれるでしょう。
シグルドソンHCは「フィジカル、技術、戦術、理解度、すべてを上げていきたい。私の目指すハンドボールは規律があって、全員で走り、全員でプレーし、全員で戦う。とても簡単でシンプルなハンドボールです」と、チームの方針を示していました。合宿中に週3回の筋力トレーニングを組み込むなど、コンタクトスポーツで避けて通れない部分と向き合いながら、日本のベースを上げていこうとしています。
シグルドソンHC率いる日本代表は、5月7日に埼玉県の富士見市民体育館で大崎電気とのエキシビションマッチを行い、7月29日の日韓定期戦(東京・駒沢体育館)が初の公式戦になります。
久保弘毅
日本男子代表#12 木村昌丈(大崎電気)
藤代紫水高―日本体育大 26歳 184cm97kg 右利き GK
■どんな選手?/大崎電気が長年探し求めていた勝てる守護神。面の大きさを利用して、どっしり構えてサイドシュートを阻止。ロングシュートは枝を利用しながら巧みに止める。いい意味でふてぶてしく、大事な場面で頼りになる。3月のプレーオフでは2試合続けての大活躍で、納得のMVP。
■観賞ポイント/試合中にこまめに喋る姿。審判に判定基準を確認しながらディフェンスラインに指示を出し、問題点を修正できる。アジア選手権ではオルテガ監督からコミュニケーション能力を買われて、大会途中から出番を増やした。
■活躍の場/学生時代はたまにふてくされる場面があったが、今では後輩の面倒を見られるようになってきた。その調子で!
久保弘毅
ハンドボールチャンピオンズリーグのベスト8が決まりました。
HC Prvo plinarsko drustvo Zagreb (ザグレブ)
対
Paris Saint-Germain Handball(PSG)
THW Kiel(キール)
対
FC Barcelona Lassa(バルセロナ)
HC Vardar(ヴァルダル)
対
MVM Veszprem(ヴェスプレーム)
SG Flensburg-Handewitt(フレンスブルク)
対
KS Vive Tauron Kielce(キェルツェ)
・男子第二試合、トヨタ車体×トヨタ自動車東日本
レギュラーシーズンの対戦は1勝1敗。その日の状態次第で、結果も変わりそうです。
トヨタ車体は故障者を多く抱えながらも、若手の台頭で日本選手権を制しました。津屋がエースポジションで年間通して安定した働きを見せ、196cmの笠原が60分間真ん中を守れる安定感を身につけました。津屋、笠原といった「素材」を、時間をかけてものにしてきた酒巻監督の育成力は、もっと評価されていいでしょう。「無名でも身体能力の高い選手に最高のトレーニングを提供する」のが、トヨタ車体の育成方針です。
決めごとの少ないフリーオフェンスにこだわるチームなので、短期決戦ではやや安定感を欠きます。セットオフェンスが手詰まりになり、簡単に速攻を許す時間帯が、60分間のうちのどこかに必ず出てきます。踏みとどまるために重要なのがディフェンスです。サイズとフィジカルを武器とした6:0DFでどれだけ守れるか。国内随一の阻止率を誇るGK甲斐の大当たりにも期待したいところです。
対するトヨタ自動車東日本は、リーグ加盟4年目で初のプレーオフ進出を果たしました。中川監督はシーズン中「早く勝ち過ぎた弊害が出ている」と苦言を呈することもありましたが、年明けからの戦いぶりは見事でした。大学時代に攻撃専門だった選手がほとんどにもかかわらず、チーム全体に3:2:1DFの哲学を落とし込み、個人能力とチーム力の両方を上げてきました。
攻撃では濱口、玉井のダブルエースの得点力に加え、左利きの山田がどれだけ得点できるかがポイントになるでしょう。山田の得点が伸びると、東日本の勝ちパターンです。また松本、吉田の両サイドにも注目してください。地味ですけど、実にサイドらしい、玄人好みなサイドプレーヤーです。特に松本のシュートテクニックは、国内トップクラスと言っていいでしょう。近め、遠めを正確に打ち分ける技術を堪能してください。
久保弘毅
・女子第二試合、オムロン×ソニーセミコンダクタ
偉大なる左腕エース・藤井が抜けて、大黒柱の東濱もケガがち。今季のオムロンは大幅に若返り、苦戦続きでした。それでも黄慶泳ヘッドコーチの我慢強い起用が実を結び、エース候補の吉田が初の得点王になりました。この1年で攻撃のバリエーションが増え、相手との駆け引きも上達しました。今季のオムロンはよくも悪くも吉田が点を取らないと勝てないチーム。吉田のシュート精度が勝負のカギを握ります。
戦力的には苦しいながらも、GK藤間、東濱、永田、勝連と、勝ち方を知る選手がいるのがオムロンの強み。特に東濱がコートにいるだけで、チームの落ち着きが違ってきます。東濱を中心に守り勝つことができれば、2年ぶりの優勝も夢ではありません。昔からオムロンは、どこよりも守りを重視してきました。
対するソニーセミコンダクタですが、レギュラーシーズンは飛騨高山に星を落とすなど、いまいち乗り切れませんでした。しかし10月の国体では、日本代表組がいない中で控え組が奮起し、延長戦の末にオムロンを下して決勝まで勝ち進んでいます。特にルーキーの鈴木は国体でアピールして、レギュラーの座を勝ち取りました。2枚目が守れる左サイドで、1対1の強さもあり、なかなか面白い存在です。
ソニーは伝統的にスキルフルな選手が多いチームです。女子球界の生きる伝説・田中に代表されるように、小さくても巧い選手がボールを展開します。でもロングシュートが足りないので「巧いんだけど、シュートに持ち込めない」時間帯がどうしても出てきます。セットオフェンスをスムーズにするためには、大砲の活躍が必要不可欠。安倍、山野といったロングが打てる選手がはまれば、全体の得点も伸びるでしょう。
ロースコアの守り合いが予想されますが、守りではオムロンに一日の長があります。ただしソニーのGK飛田が勝負強さを発揮したら、試合はもつれるでしょう。いくつになっても向上心が衰えないベテランGKは、勝負どころで抜群の集中力を発揮します。
久保弘毅
ドイツより meine Lieblingssachen